アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
高級サロンはこの世の終わり
-
目の前に広がる世界にタマキはため息をつく。薄暗い個室には、人が絡み合っている。裸の男の上には、細身の少年が絡みつき、艶美に微笑む。熱気の籠る部屋からは、人体がぶつかる音と水音が響いている。
「……この世の終わりだ」
肩にかかる銃の重さを感じながら、呟く。
「何言ってるんだ、高校生。この世の天国だろうが」
筋肉が詰まった重い腕が自分の肩に回される。タマキはもう一度、豪華な部屋の中を見回し、それから男を見上げる。
「クライアント、それは違います」
αらしく整った顔だちが俺の顔を覗き込む。垂れ目がちの色素の薄いグリーンの目が俺の真意を探ろうと覗き込む。
「ここは地獄です。少なくとも我々にとっては」
男の目がまるで三日月のように細くなり、それから口元が上がる。
「潔癖だな、ベビーフェイス! 貧乏人にとってここは手に入らない夢の世界だからな! そんなに自分が手を出せないのが、苦痛か!」
そう言って、大きな口を上げて豪快に笑う。タマキはその男の腕を振り払うのを我慢しながら、目の前の光景を見つめる。ソファの影からほっそりとした足先が覗く。喘ぎ声が聞こえるたびにその足先が震える。ここはΩをキャストとして働かせる会員制のサロンだ。タマキにとっては似つかわしくない場所だ。落ち着かち着かず、タマキは視線をあちらこちらに向ける。
「女が少ないこの世界ではΩこそが、夜の世界の女王だ。いいだろう? α専用会員サロンだが、お前が金を払うなら特別に入れてやってもいいぞ」
「結構です」
すっぱり断ると、背中をバンバンと豪快に叩かれる。
「堅い、堅いなあ! 少年。大変だな、βはまだ高校生なのに好きでもない場所で、好きでもない奴を護衛しなきゃいけないんだから!」
男、観堂はそう言って愉快気に喉を震わせる。タマキは一瞬だけ眉を寄せるが、すぐに無表情に戻る。
「勉強するには金がいるから」
「そりゃそうだ。学問は昔から贅沢品だぜ。なあ、そんなに勉強してどうする? お前、βなんだろう? 出世してもたかが知れているぜ。将来一体に何になりたいんだ?」
「政治家」
そう言うと、観堂が一瞬驚いたように目を見開き、そして豪快に口を上げて笑いだす。
「政治家!? 笑わせるなよ。それはαの仕事だ! βが憧れるには随分壮大な夢だな」
タマキは何も答えず、静かに口元に笑みを浮かべる。笑いすぎて目尻から涙が出て来たのか、男が濡れた目元を指先で拭う。
「なあ、気に入った。お前、名前は?」
「タマキです。クライアント」
観堂はタマキの顔を上からぐっと覗き込む。
「なあ、タマキ。一つ聞きたい。お前から見て、俺は悪い人間に見えるか?」
タマキは男を見返す。だらし無く整った顔の男だ。だが、垂れた目元が酷く男を魅力的に見せる。
「ええ、とても」
ここは、α専用の会員クラブ。観堂はこのクラブのオーナーだ。貧困層のΩを集め、そしてここで密かに売春をさせている。
「正直な子供だな」
「いえ、大人です」
「そうだな、ベビーフェイス。俺は悪い人間だ。そんな俺をせいぜい守ってくれよ」
そう言って頭を撫でられて、男が去っていく。
「……お待ち下さい」
男は脅迫を受けた。殺してやるという物騒なものだ。だから、護衛を派遣するタマキの会社に依頼をした。もう一度装備を確認して、タマキは男の後ろを追いかける。小走りで近づいてくるタマキを男は目を細めて見下ろす。
「これからのスケジュールは?」
頭の中の事前スケジュールと行動を照らし合わせる。
「会合、それから可愛いスタッフの仕入れだ」
肩にかけたコートを男はバサリとはためかせて見せる。色素の薄い瞳を守るためか、サングラスを掛けながら、観堂は笑う。
「……それは、違法では?」
「同意の上では全てが合法だ」
そう言って、口元を上げて、大きく両手を広げる。
「世界は滅びに近づいている。何が正しくて、何が間違っているか、分からないのであれば、俺がルールだ」
茶色の高級ブランドのコートの端が揺れる。色素の薄い瞳をサングラスで隠して、口元を上げる。魅力的にすら見えるその後ろ姿を黙って見つめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 5