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千里眼の老婆2
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これは、空間魔法の一種であった。決められた場所を決められた順に決められた回数だけ回り、最後にある言葉を唱えることで扉が開くように設定された、比較的高度な魔法である。そして、その扉の先こそ、王が目的とする場所だった。
手順に従いこの空間魔法を解除したのは王だったが、別にこれは王が施した魔法ではない。赤の王は、こういった緻密で複雑な魔法は大の苦手なのだ。この空間魔法は、扉の先にいる者が、自身が認めた訪問者以外の侵入を防ぐために施したものだった。
「お邪魔する」
そう断って扉をくぐると、扉は開いたときと同じように勝手に閉まってしまった。それをちらりと見てから視線を前に戻せば、男の視界に、沢山の物が乱雑に置かれている部屋が広がった。物が多いせいか手狭に感じられるそこには、分厚い布がかけられた低いテーブルがあり、それを挟んで向かいの床に、背の曲がった老婆が座っている。
「久しいな、ご老人」
王が老婆に向かって軽く会釈をすると、老婆は皺だらけの顔を顰めて返した。
「儂と会うというのに、随分とやぼったいものを張り付けているねぇ」
「やぼったいもの? ……ああ、目くらましのことだろうか」
そう言った王が苦笑する。
「これは申し訳ない。一応これでも有名人でな。こうでもしなければ、目立ってしまって困るのだ」
「そうやって誤魔化したところで、お前さんはどうせ目立ってしまってどうしようもない人間だよ」
呆れた声で言った老婆が鬱陶しそうに手を振ると、男を覆っていた目くらましの薄衣が見る見るうちに剥がれていき、赤銅の髪と金の瞳が露わになる。
「こら、何をする。これでは帰るときに難儀してしまう」
「うるさいねぇ。いつものように王獣にでも乗って帰りな。道中の食料くらい用意してあるんだろう?」
「まあ、それはそうなのだが……」
ついでに薄紅の国でも冷やかして帰ろうかなぁと思っていた王だったのだが、どうやらその考えを見透かしたらしい老婆は、呆れ返った表情をした。
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