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千里眼の老婆3
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「またあの犬っころに怒られたいのかい?」
老婆の言う犬っころというのは、グランデル王国のレクシリア宰相のことである。
「今回は公式に許可を得ての遠出だ。道中ちょっとしたトラブルに巻き込まれて帰りが数日遅れてしまったとでも言っておけば……」
「なんとかなるのかい?」
「いや、嘘を見抜かれて大目玉だな」
そう言って笑った王に、老婆がやれやれと溜息をつく。
「まあそんなことは良いんだよ。取り敢えずお座り。儂に用があってきたのだろう?……大方、あの眼帯の坊やのことかね」
「さすがに耳が早い。キョウヤをご存知か。それでは、現状の帝国の動きも把握しているのだろうな」
老婆の向かいに置かれた座布団に腰を下ろした王が、すっと真顔になる。
王がこの老婆に出会ったのは、かれこれ十五年以上前のことである。自身を千里眼の婆と名乗るこの老婆は、その名の通り、千里を見渡す目を持っているらしい。はたしてそれが本当に千里先を見ているのか、はたまたもっと遠くにも及んでいるのかは王も知らなかったが、少なくとも王がこうして訪れるとき、老婆は王の欲しい答えを持っていた。
今回も王は、天ヶ谷鏡哉の素性について老婆に尋ねようとやってきたのだ。円卓の十二国一の情報通である黄の王すらもエインストラについて有力な情報を持っていなかったため、残る手段がこれしかなかったのである。
王自身としては、この老婆の力を借りることはあまり好んでいなかった。別に、老婆を好いていないだとか、そういうことではない。ただ漠然と、この老婆は人ではない何かなのだろうと感じていたので、そういう類のものの力を借りるのが憚られただけである。
人には人の領分というものがある。それを侵すのも侵されるのも、本来の在り方から外れる行為だと、王はそう考えていた。
それを証拠に、王がこの老婆の力を実際に借りるのは、これが二度目である。何度か相談に赴くことはあったが、基本的に過去の一回を除けば、結局王は己の手で全てを解決していた。
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