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千里眼の老婆10
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「よく判っているじゃあないか。それじゃあこれは、そんな察しの良いお前さんへのご褒美だ」
そう言って一度言葉を切った老婆は、王の金の瞳を見つめて目を細めた。
「良いかい。何もかも手遅れだ。お前さんの蛇口はもう緩んでしまった。状況が悪化することはあっても好転することはないだろう。だから、後はもう、これ以上緩むことがないように手を尽くすしかないよ。そうすれば、……まあ、四十くらいまでは生きられるんじゃあないかね」
老婆の言葉に、王が僅かに目を見開いた。
「……前に聞いていた話と違うぞ。あのときは七十までならなんとかなるだろうと言っていたではないか」
リアンジュナイル大陸の人間の平均寿命は百歳程度なので、それでも相対的には短命な方だ。だが、今老婆が告げた寿命は、それを遥かに下回る。これはさすがの王も予期していない言葉だったようで、彼は真剣な表情で老婆を見つめた。
「そんなことを言われてもねぇ。こうも馬鹿みたいにきらきらと輝きを放っていたら、そりゃ自分まで燃やし尽くしてしまうよ。お前さん、そんなに早く死にたかったのかい?」
「馬鹿なことを言わないでくれ。そんな訳がないだろう。……しかし、私はそんなにも輝いているのか? 自分では全く判らないのだが」
「判る者には判るんだよ。まったく、本当に呆れた王様だね」
そう言った老婆の声には、ほんの僅かな憐憫のようなものが含まれていた。それに気づいた王は、しかし老婆の言葉を噛み締めることはせず、何かを思案するように目を伏せた。
「……そうか。では、光り輝いている私は、きっと美しいのだろうな」
そして、老婆の視線の先、輝ける太陽にも似た炎の王は、蕩け出すような甘く優しい笑みを浮かべるのだった。
「ますます早死にになるのはいただけないが、それでも、私がこれまでよりも一層美しくあるというのならば、それは間違いなく、幸福そのものだ」
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