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豹変3
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「お顔を洗った後のお湯やお食事後の食器などは、そのまま置いておいてくださいませ。すべてのご支度がお済みになった頃に、また伺いますわ」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってもう一度頭を下げると、女官長はやはり優しく微笑みを返してから部屋を出て行った。
誰もいなくなった部屋に少しだけ安堵したような息を吐いてから、少年は黙々と食事を始めた。優しい甘さの蜜が乗った白パンと、薄切りの燻製肉が少々に、さっぱりとした味付けがされたサラダ。王宮の食事にしては質素にまとまっているこれらは、恐らく少年に合わせて作られたものだ。あの王のことだから、あまりに豪勢なものを出されると気が引けてまうことも、物理的に胃に収まりきらないだろうことも、全部お見通しなのだろう。
それでも、ひとつひとつの食材は間違いなく高級なもので、普段の食事と比べると明らかに豪勢である。食材が変わるだけで味もそれなりに変わるんだなぁなどと思いつつ、少年は出された食事を全て平らげた。驚くほど丁度良い量だったのだが、とうとう食生活まで把握されてしまったのだろうか。そう考えると、なんだか少しだけ気味が悪い。
そんなことを思いながら、美味しい食事を食べ終えた少年が少し休憩をしていると、タイミング良く扉を叩く音がした。女官長が再び部屋を訪ねて来たのである。あまりにタイミングが良くて、なんだか常に監視されているような気さえしてくるが、勿論そんなことはない。女官長が優秀なだけなのだろう。
今度は自分とは別に二人の女官を連れてきた女官長は、二人の女官に後片付けを命じてから、少年に向き直って微笑んだ。
「さあ、ご支度も整ったご様子ですし、グレイ様の元へ向かいましょうか。本日もお勉強なさるのでしょう?」
「あ、はい。今日は確か、実際に魔術を使ってみるって……」
「まあ、それは楽しみですわね」
そう言って上品に笑った女官長だったが、別に何も楽しみではない少年は、やはり曖昧な微笑みを返すしかないのだった。
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