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豹変6
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「心配しなくても、魔術鉱石から力を引き出す感覚さえ覚えちまえば、これくらいの魔術は簡単に使えるようになるさ」
「これ、そんなに簡単な魔術なんですか?」
「まあ、ちっちゃい火の粉が一瞬散る程度のもんだからな。何の役にも立たねェ練習用の基礎魔術だよ」
そんな基礎魔術ですら、自分が思っていた以上の集中力が必要らしい。グレイの話では高度な魔術ほど術式が複雑になるそうだから、その複雑な術式を描く間ずっと鉱石の力を引き出し続けられるよう集中しなければならないとなると、確かによほどの実力者でないと成し遂げるのは難しいだろう。逆を言えば、よほどの実力者が相手でない限り、魔術に対抗する上で相手の集中を削ぐというのは有効な手段であることが窺えた。
(グレイさんが言っていたのは、こういうことを実際に体感した上で学べってことだったのかな)
確かに、これは実際にやってみないと判らない。それに、実感を持つことで、座学で学ぶよりもずっと記憶に残るだろう。どうやら、グレイ・アマガヤという人物は、教育者としても優秀な部類であるらしかった。
しかし、グレイの意図が判ったからと言って、少年が魔術を使えるようになる訳ではない。その後も何度も魔術の行使を試みた少年だったが、どうにも集中が足りないらしく、術式の半分も完成できないまま時間だけが過ぎていった。
途中で昼食を兼ねた休憩を挟んでから臨んだ午後も、なかなか思うように鉱石の力を引き出せず、もしかすると火の鉱石と相性が悪いのかと考えたグレイが鉱石の種類を変えても、特に進展は見られなかった。
勿論、ずっと魔術の練習ばかりしていた訳ではない。グレイなりに少年の様子を見て適度に休憩を挟んだり、魔術とは関係のない雑談のようなものをして緊張を和らげたりなどしていたのだが、上手くいかなければいかないほどグレイに対する申し訳なさが募るのか、少年の集中力は徐々に低下しているように思えた。
「……あの、本当に、申し訳ありません……」
「気にするなって。そもそも無理矢理やらせてるのはオレなんだから、お前が謝ることは何もねェよ。……まあでも、そろそろ一旦休憩入れるか。こういうのは根を詰めたから良くなるってもんでもねェしな」
「……すみません……」
「だから気にするなって。それより疲れただろ」
そう言ったグレイが、部屋の隅に置いてあったワゴンに向かう。水差しとちょっとしたお菓子が乗せてあるそのティーワゴンは、先程休憩のときにでもどうぞと女官が持ってきてくれたものだった。
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