アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
豹変8
-
特に深く考えることもなく否定した少年だったが、何故かグレイは少し落胆したような変な表情を浮かべた後、もう一度確認を取るように口を開いた。
「本当にいないのか? 例えばちようっていう名前の、」
そこまで言ったところで、グレイはほぼ反射的に後ろに飛び退っていた。それは危機を察知した本能によるものだったのかもしれないし、日頃の鍛錬の成果だったのかもしれない。だが、何にしてもグレイのその判断は僅かに遅かった。
後方へ逃げようとしたグレイの喉を、少年が伸ばした手が捉える。そのままぎりぎりと喉を絞められ、グレイは空気を求めて喘いだ。
「ッ、ぐ、ぁ……!」
何故いきなり少年が襲ってきたのか。何故それなりに鍛えているグレイの反応を凌駕する速度で動けたのか。一瞬その疑問がグレイの思考に上がってきたが、グレイはすぐさまそれを捨て去った。それよりも今は、この拘束から逃れることが先決である。
そう判断してからのグレイの行動は早かった。喉を絞め上げる腕を左手で掴んで、そちらに相手の気を逸らしてから、すぐさま右中指の指輪を親指で二度擦る。すると、指輪に嵌められている赤い魔術鉱石が反応し、そこから炎が噴き上がった。グレイを守るように少年との間に割って入ってきたそれに、少年が小さく舌打ちをして後ろに飛び退く。
解放されたグレイは、げほげほと咳込みながら、少し距離を取った位置にいる少年を睨むようにして見た。
姿形は少年そのものだ。だが、表情が違う。纏う空気も違う。これをなんと表現すれば良いのか、グレイには判らない。判らないが、それでも、
「なんでテメェがちようを知っている」
そう言い放ったこれは天ヶ谷鏡哉ではないと、そう思った。そうだ。天ヶ谷鏡哉にしてはあまりにも堂々としていて、あまりにも冷たい。
射殺しそうな目つきでこちらを見返してきた少年の顔は、今までよりもずっとグレイ自身に似ているような気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
62 / 216