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天ヶ谷鏡哉3
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僅かに避けきれなかった切っ先が、グレイの頬を掠める。それに構わず一気に身を沈めたグレイが、先ほどと同じ人差し指の指輪、風の魔術具を擦り上げると、今度はその右手を小さな風の渦が覆った。それをそのまま『彼』の腹に叩き込もうとしたグレイだったが、寸でのところで横跳びに躱されてしまい、その拳は空を切った。
しかし、それくらいは計算の内である。すぐさま風の魔術具を三度叩いたグレイが右手を『彼』に向かって翳すと、グレイの右掌を起点に生じた小さな風の刃が『彼』目掛けて飛んでいく。恐らくはこれも躱されてしまうだろうが、その間少しだが時間が稼げる。その時間を使って捕縛のための魔術式を組み上げることができれば。
そう考えてすぐさま術式を宙に描き始めたグレイだったが、『彼』がいる方からグレイが放ったものと似た風の刃が向かってきたのを見咎め、ほとんど反射的に術式の展開を止めた。そのまま指輪を叩いて発動させた小さな風の盾を使い、襲ってきた刃を全て受け流す。咄嗟にここまでできたのは、日頃の鍛錬の賜物だろう。
「……お前、」
グレイが思わず呆然と呟いたのも、無理はない。たった今グレイを襲った風の刃は、確かに魔術によって生み出されたものだ。実用的な基礎魔術のひとつであり、魔術具ひとつで瞬時に発動できる程度のものではあるが、しかし、
「……オレの攻撃を避けながら、描いたってのか」
確かに難易度の高い魔術ではないが、だからといって短い術式でもない。あの風の刃を避けつつ式の全てを描き切るなど、それこそグレイにだって不可能だろう。だからこそグレイは魔術具を使用しているのだ。だが、どうやら『彼』はそれをやってのけたらしい。
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