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天ヶ谷鏡哉14
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「壊れてしまった。ちようにとっては母親だけが世界そのものだったから、自分がその世界を破壊してしまったという大罪に耐えることができなかったんだ。……だから、ちようはあのときからずっと、深いところで眠り続けている。ただ無条件で自分を愛してくれる存在である鏡哉に助けを求め、全てを押し付けて、誰の手も届かないような場所で、眠りについてしまった」
「ふむ。しかし、その割にキョウヤはお前たちのことを知らぬ様子だったな」
「ああ、そうだな。鏡哉は鏡哉で、突然ちようの記憶や行いの何もかもを押し付けられ、抱えきれないそれに壊れてしまいそうになった。ここで鏡哉まで壊れてしまったら本当にどうしようもなくなってしまう。だから、私が鏡哉から、母親を殺してしまった記憶や、ちようや私たちに関する記憶を全て奪い、生まれた時からその身体は天ヶ谷鏡哉という存在のものだと誤認させるような作り物の記憶を植え付けた。鏡哉を壊さないためにはそれしかなかったんだ。……けれど、私にできたのはそこまでだ。それ以上の、例えば母親に愛されていたと思わせるほどの記憶の改ざんは無理だった。それに、改ざんしたとは言え、鏡哉は記憶を完全になくした訳ではない。ちょっとした刺激で思い出してしまう可能性だってある。だから貴方たちも、鏡哉にちようや私たちのことを言うのはやめてくれ。万が一鏡哉が私たちのことを思い出してしまったら、今度こそ鏡哉は壊れて、ちようまで損なわれてしまうかもしれない。私も、今貴方たちと話していることについては、母親から虐待を受けていたと告白したところだけを真実として残し、他はすべて鏡哉の記憶に残らないようにするから」
淡々と告げられた内容に、グレイはどこか責めるような目をして『アレクサンドラ』を見た。
「お前、まるでキョウヤを身代わり人形みたいに扱うんだな」
非難の色を含んだそれに、しかし『アレクサンドラ』は不思議そうな表情を浮かべる。
「それのどこに問題がある? 私たちは皆、ちようのために生み出された人格だ。ちようの役に立つのならば、身代わりだろうとなんだろうと引き受けるに決まっている。それ以上の価値など、私たちにはないのだから」
あまりと言えばあまりな発言にグレイはなおも詰め寄ろうとしたが、それをレクシリアが制した。
「落ち着きなさい、グレイ。陛下のお話がまだ終わっていません」
静かな声に諭され、グレイが押し黙る。
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