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ロステアール・クレウ・グランダ7
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王の言葉に、少年が息を呑む。
「……お母さん、いないんですか……?」
思わず零れ落ちたその言葉に、王はやはり優しい笑みのまま頷きを返した。
「ああ。母は王宮に訪れてすぐに私を産み、死んでしまったからな。困ったことに肖像画のひとつすら残っていないので、私は母の顔も声も、それに名前すら知らんのだ」
「名前も……?」
「母は王宮の人間に名を名乗ることはせず、唯一母の名を知っていたのだろう父上も、結局誰かにそれを明かすことはなかったからな」
王の告白に、少年は心の底から動揺していた。まさか、王にそんな過去があっただなんて、想像すらしていなかった。多くに望まれ、多くに祝福されている王だからこそ、その生涯は常に恵まれたもので、これまでもこの先も何ひとつ不幸に見舞われることなどないのだろうと、漠然とそう思っていた。
「私を産んだ後の母の胎は、内側から炎で焼かれたかのように爛れきっており、恐らくはそれが死因だったのだろうと言われている。だから私はいわば、母を殺して産まれてきた忌み子なのだ。今でこそそのようなことを言う者はいなくなったが、私が子供の頃は、よく陰口を聞いたものだ。……まあ、その言葉は概ね正しいのだろう。私はこれまでに三人の妻を娶り、王妃として迎えたが、三人が三人とも、子を身籠ってすぐに胎が焼け爛れる奇病に罹り、苦しんだ末に赤子ともども命を落としてしまったからな。こうなってはもう、認めるよりほかあるまい。母の胎を焼き、妻の胎を焼いたのは、恐らく私なのだ」
淡々と告げる王に、少年の鼓動がどくんどくんと早くなる。この美しい王が、母を殺して産まれ、失った母のことを何ひとつ知らないで生きてきたなど。
(……なんて、かわいそうな人なんだろう)
この至高の王に対して抱くには、あまりにも不釣り合いな感情だ。それでも、少年はそう思わずにはいられなかった。
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