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ロステアール・クレウ・グランダ9
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「そうだ。基本的な法則を記憶しさえすれば、その声音や瞬きの速さ、言葉数などの様々な情報から他者の感情を読み取ることは容易だった。後は、私自身もそれらと同様の所作を心がければ良いのだ。一般的に人が楽しいと感じるときに笑い、悲しいと感じるときに泣く。それを実行するだけで、周囲の私を見る目は如実に変化した。まあ、生き物が環境に適応していくようなものだったのだろう。こんなことを続けるうちに、すっかり慣れてしまってな。今はもう、呼吸をするのと同じくらい自然に表情が用意されるようになった。ここに至るまでにかなりの労を要しはしたが、努力の甲斐はあったようだ」
そう言って微笑んでみせた王に、少年はどんな言葉を返せば良いのか判らなかった。だが、王に感情がないと言うのならば、少年に寄せているという好意すらも嘘だということになりはしないのだろうか。
そんな考えが一瞬頭をよぎった少年だったが、すぐにそれを否定する。あのとき、他の何者でもなく少年にその誕生を祝われたいのだと言った王の言葉に、嘘偽りなどなかったはずだ。そしてそれは、王が口にする好意の言葉たちだって同じである。明確な根拠を示すことなどできないくせに、何故か少年は強くそう思った。
そんな少年の心の内が判ったのだろうか。少年の手を握った王は、炎を孕んだ瞳で彼を見つめた。
「私はお前に出逢って、初めて感情を知ったのだ。お前と言葉を交わせることに喜びを感じ、お前と共に過ごせることを楽しいと思う。そして、もしもお前に拒絶されることがあったなら、そのときは深い絶望と悲嘆に暮れるのだろう。こういった感情の数々を、他でもないお前が私に与えてくれた。私は、お前と接しているときだけは、己の感情を知ることができるのだ。きっと、これまでも、これから先もずっと、お前だけが私の特別なのだ」
それは熱烈な告白だった。この世でたったひとり、少年だけが王にとって特別な存在なのだと、王はそう言っているのだ。
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