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ロステアール・クレウ・グランダ12
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王が目を閉じて、深く息を吐く。
「義母が抱いた懸念は理解できる。私や父上を恨むのも当然のことだ。義母は、父上からの本当の愛情が得られないと知ってなお、正妃として誠心誠意努めていた。そんな自分が報われず、ぽっと出の女が産んだ子供が全てを攫って行くなど、耐えがたいことだったのだろう。……だが、それでも義母は、王家は、父上を殺すべきではなかった。既に私怨に囚われていた彼らにとっては愚かな王だったのかもしれないが、父上は間違いなく良き王だった。決して、己の恋情と王の役目を混同するようなことはしない人だったのだ。……そもそも父上は、私に王位を譲る気など欠片もなかったのだから」
そう言った王が、少年の手に触れる。優しく肌を撫でる大きな手は、どうしてだか縋っているようにも見えた。
「私が十五になり、成人したあの日、父上は私に向かって謝罪した。彼女の子であるお前は、きっと誰よりも王にふさわしい人間であるのに、その座を用意することができなくて本当に済まない、と。……だから、父上が私に王位を与えるなど有り得なかったのだ。父上は心から私に王位をと思っていたのだろうが、王の責務を果たすため、それを実行する気は全くなかったのだから」
そう言った王の表情は、どこか寂し気なようにも見えた。尤もそれは一瞬のことで、すぐに無表情に戻ってしまったから、目の錯覚だったのかもしれない。
「そして、王家が父上を殺したのだという確信が持てたその日の夜。父上の謀殺に関わった王家や貴族の住居が突如噴き上がった巨大な火柱に呑まれ、関係者の全てが焼け死ぬという事件が起こった。国の広範囲に渡って局所的に、かつ同時に上がったその火柱には魔力の痕跡などはなく、明らかに不自然だというのに自然に生じたものであると結論づけるほかなかった。そしてその後、私がロンター家と共に提出した調査書により、父上の謀殺が白日の下に晒されることとなり、国中で、あの夜の不可思議な火柱は天にいる炎神が下した制裁なのだと噂されたものだ。だが勿論、事実はそうではない」
きっぱりとそう言い切った王は、ひとつ息を吐き出してから、やはり表情のない顔のまま虚空を見つめた。
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