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ロステアール・クレウ・グランダ14
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「……やっぱり、貴方はとてもすごくて、とても良い王様なんですね」
王の様子に戸惑いながらも、少年はおずおずとそう言った。それは嘘偽りのない言葉だったのだが、しかし王はゆっくりと首を横に振った。
「いいや、私は決して良王などではない。無論、そうあろうと努めてはいるが、私は所詮民の理想の体現、すなわち、ただの傀儡にすぎん。それを証拠に、グランデルという一国のみにとっての最良に近い王になることが、私が出来得る精一杯だ。もし今の私がグランデル国民以外からも良王として見えるのなら、それは私の手柄ではなくグランデル国民の手柄なのだ。私は民の思うままに存在する王に過ぎない。故に、民が平和と平穏を望むのならばそのように努めるし、国土の拡大と戦争を求めるのならばその通りにする。だからな、この国が平和なのは、国民たちが自身の手で成し遂げた成果そのものなのだ。私はただ、その術を教え、導くだけの装置にしかすぎない。判るだろう? こんなものは良王とは呼べん。真に優れたる王ならば、すべての国、すべての大陸、ひいてはすべての世界をも、良き方向へと導いてしまうのだろうから」
無機質な表情のまま吐き出された、どこか自分を戒めるようにすら聞こえるその言葉を、少年は理解できない。王の思考が判らないのだ。この煌炎の王が掲げるそれは、きっと絶対に存在することのない理想の極致だろう。そしてその理想は最早国王と呼べるものではなく、いっそ誇張を孕んだ妄言にすら思えてしまうかもしれない。だが少年には、王がそれが存在すると信じ、その極致に至れぬ己を無価値であると断じているように思えた。
そんなことはない。貴方は素敵な王だし、それだけが貴方の価値ではないのだと。そう言えたら良かったのだろうか。だが、臆病な少年はそれを口にすることができず、結局彼が何かを言う前に、王はふっと表情を緩めて優しく微笑んだ。
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