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ロステアール・クレウ・グランダ16
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(ああ、それは、とてもさみしいことだな……)
漠然と抱いたその気持ちは、哀れみだったのだろうか。愛しさだったのだろうか。
微睡始めた少年を愛おし気に見つめ、王がその頬にそっと唇を落とす。
「そうだ、昨日といい今日といい落ち着ける時間がなかったから、まだきちんと祝えていなかったな」
一体何を祝うのだろうと、ぼんやりそう思った少年の鼓膜を、温もりに満ちた声が震わせた。
「お前が生まれてきてくれたことに深く感謝し、心から祝福しよう。……お誕生日おめでとう、キョウヤ」
穏やかに静かに、しかしはっきりと向けられた言葉は、水面を揺らす雫のように、少年の胸の奥に落ちた。そうして広がった波紋が、じわりじわりと全身に広がっていく。それが何であるのかは判らない。凍えるような暖かいような、痛いような優しいような、苦しいのか楽しいのか悲しいのか嬉しいのか。そのどれとも、どちらとも判別できない、名付けようもない何かだった。
けれど、それが全身に隙間なく行き渡ったそのとき、まなじりに集った熱が決壊して、たった一粒が少年の頬を滑り落ちる。何故泣いているのかなんて判らなかったし、眠気に侵された頭では、そもそも泣いていることも、その雫を王の指がすくい取ったことすら、判っていなかった。
それでも、ただひとつ。
(……それが、)
誰からも望まれず、ただ在るだけを呪われ、否定され続けていた少年は、
(…………ぼくは、ただそれが、ほしかったんだ)
何かを求めて空を掻いた指先を、王がすくい上げるようにして握り返す。混じり合う熱が溶かしたさみしさは、果たしてどちらのものだったのだろうか。
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