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この広大な大地の旅路において、先立つものは金や食料といった、日々使わざるをえないものである。
現実問題、路銀はいつか尽きるのだ。そのためにギルドが結成されている。どの冒険者たちもギルドに登録することで未収入になる事態を防ぎ、生活をやりくりしていた。勇者養成学校(通称・勇者カレッジ)でも、旅を始めたらすぐにギルドへ向かい申請を済ませるべしと推奨されている。
「ギルドオファーだるっ! どうしても行かなきゃだめ?」
ガイア・アグリオス。彼もまた勇者学校を修了し、魔王城を目指して旅をしていた。
しかし、実直で正義感の強い人材が輩出されるという勇者カレッジの卒業生の中でも、ガイアは非常に浮いていた。特に際立ったのが貞操観念の低さ。誰もが不純異性交遊とは無縁の生活をしていたが、ガイアは入寮一週間で近くの宿屋に夜這いして補導された。その後も複数の人間と関係を持つ、一年以内に200人斬りを達成する、と淫魔のごとき経歴を持つ男である。
「何言ってるんですガイアさん。今ここで頑張らないと文無しになるのは時間の問題ですよ」
ガイアの隣りで至極真っ当なことを話す少年は名をキースという。自身の行動が制限されたくないという理由から単独行動を好むガイアが、唯一長期にわたって連れている人間であった。この勇者、女をはべらせることも多いが、彼女らは一夜限りの関係である。ガイア曰く「ワンナイトガールズは戦力じゃなく、精力」。
「面倒でも、やるんです。お金を貰えて勇者としての名声も上がる、一石二鳥じゃないですか。まあ、そのお金も名声も、女遊びに消費されるんでしょうけど」
過ごした時間が長いからか、キースはガイアの人となりを熟知していた。下半身はだらしない、金は全て女につぎ込む。生活費も夜の街で使い切ろうとするため、キースが財布を握っている。浪費家のガイアがブランドものの武器と防具を身につけていられるのも、キースの金策あってこそであった。
「考えてもみろよ。あちこち巡って敵倒して、レベルアップしてまた次のとこ行って、魔王倒すまでそれの繰り返しとか……気が遠くなる。ずっと繁華街の宿屋でおなごと遊んでたい。そうじゃなくても、せめて簡単に魔王を倒せる方法とか無いもんかね。実は脇腹が弱いとか、額に『肉』って書くと消滅するとか」
「ほんと、ダメ勇者。普通に倒してください。ていうかガイアさんは段階をすっ飛ばし過ぎなんですって。敵を倒す、魔王を倒す、だけじゃないんですよ。強い武器と防具揃えて、魔法と奥義もたくさん覚えて、なんなら僕以外のパーティも作って」
「お前は簡単に言うけどさ、それがひっじょおおおおおおおおおに面倒臭い。なんか無いかな、手っ取り早く最強の武器手に入れる方法」
新聞に目を走らせていたキースがあっ、と声を上げた。
「なに」
「各所で刀狩りイベントっていうのが行われてるらしいですよ。野生化した剣が大量発生、倒した剣は全て持ち帰ってもいいらしいです」
「別にそんなに剣はいらねえよ。痴女大量出没とかなら喜んで行くが」
「あ、こっちの地区の刀狩りはちょっと変わってますね。勇者の権限で民家に潜入、村人が密かに所持している剣を盗み出せ、というイベントみたいです。なんと盗賊のスキルも高められます」
「リアルな刀狩令じゃん」
「盗賊に転職されるのは困りますけど、今のあなたにはうってつけだと思いますよ。敵を倒してお金を稼ぎ武器を新調するのが億劫なら、武器を手に入れること自体を目的にしてしまえばいいんです」
「でもさぁ、こういうので手に入る剣ってどうせレア度低いんだろう? 俺は一本あるだけでどんな敵も倒せるような最強の剣が欲しいわけよ」
「ああ言えばこう言うんですね。どんだけだらしないんですか」
「あれ欲しいな、エクスカリバー」
「はっ!? ちょっとガイアさん、冗談キツいですよ」
キースはどこからどう説明すればいいのか頭を抱える。
「そうだなぁー……伝説の聖剣についてどこまでご存知ですか。分からないなら4コマ漫画でも紙芝居でも用意しますけど」
「それくらい知ってらぁ! どっかの岩にぶっ刺さってて聖剣に認められたやつだけが引き抜けるんだろ」
「良かった。とりあえずおとぎ話程度の知識はあったみたいですね。その通りです。全ての剣が伝承通り岩間に突き刺さっているわけじゃないみたいですけど、何かしらで認められることで所有権を得るということに関してはいずれも共通しています」
伝説と謳われる剣だが、実際はこの世界のどこかに確かに存在している。持ち主として認めた者だけが引き抜くことができ、その持ち主の死後、継承先がいない場合は再び地に還り、次の持ち主が現れるまで永い眠りに就く。この循環を繰り返すことで伝説は途絶えないのであった。
「でもよりによってエクスカリバーを所望するとか、ミーハーなところは相変わらずですね」
「知ってる剣の名前言っただけだっつの」
「そう、女をたぶらかすしか能のないガイアさんでも知ってるほどの知名度。事実エクスカリバーは、数ある剣の中でも最高峰の力を持っていて、魔王攻略には欠かせない武器と言われています。でもそれだけ強力な代物、一般人が易々と手にできると思いますか」
「はいはい、無理なんだろ」
「まずなんといっても強さ。それが証明されなければなりません。一見するとただの無機物のようですが、有名な剣ともなると自我も防衛反応も備わっています。自身を守るために周囲の環境をダンジョンのように変化させ、その時点で並の勇者はふるい落とされます。次に血筋。ある特定の王族の血を引く者でないと、触れることもままならないとか」
「無理ゲーじゃん」
「いかに無謀なことを言っていたのかようやく理解できました? 強い人なんてそれこそいくらでもいるでしょうし、ガイアさんの場合は人格にも問題あります」
「俺の人格に問題?」
ガイアは考える人のポーズをとる。それから数秒後
「俺にどっか問題ある?」
「ほら、そういうところですよ。聖剣を抜けるなんて夢にも思わないほうが賢明です。それよりも地道に強い武器を手に入れて、強い敵を倒してを続けていったほうがいいに決まってます」
「はぁーーめんどくせえな」
「長い目で見れば堅実にやったほうが楽ですって。聖剣狩り、諦めつきましたか」
「んーー」
ガイアは再度考える人となった。果たしてそのポーズに意義はあるのか。
「決めた。間をとって、別の聖剣手に入れに行くぞ」
「……」
無尽蔵のポジティブさはどこから湧いてくるのか、キースには不思議で仕方がなかった。
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