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いきなり人の部屋へ入ってきて隣に腰を下ろすと、「それでな」と一言。これまで会話をしていたかのような流れで口火を切る。
「どんな些細なことでもいい。何かあった時は、僕を頼って欲しいんだ」
撓んだマットレスの反発が感じられなくなるまで、僕は彼の左胸辺りをじっと見つめていた。黒いサマーウールの上着は二日連続で身につけられているはずなのに、まだびしっとした着こなしを貫いている。ラペルって言えば人をアナルから口まで一直線に貫くことが出来そうなほど鋭い。
めちゃくちゃ高そうで、よれている姿など想像できないほど完璧だけど、このアホほど暑いときに向き合うのは死ぬほど鬱陶しい。彼そのものだ。クソ真面目な表情を維持する顔まで視線を持ち上げ、つくづくと眺めれば、改めて実感する。
30をちょっと越えた年齢なのに、今でも彼はイェール大学のレガッタ部で主将を務めて得た経験について面接で話し、証券会社への就職を勝ち取ったばかりみたいな顔付きをしていた。
これはあくまでも例えで、実際は僕の父さんの会社でインターンをしていた高卒の苦学人。独立した今じゃロッテリーの販売・発券マシンのシェアで東部一を誇る会社の代表取締役だ。ワーオ、独立心あふれるベンチャー企業! 頭にスリーピンで留められている黒いキッパーは、理想的なホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの容姿に余りにも不釣り合いだった。
いや、もしかしたら、純血のプロテスタントじゃないのかも。医療用マリファナでトンでいた父さんが以前言っていたのを思い出す。「セクシーな人間を見かけたら、必ず同胞の血が混じってると思え。ヘブライ人の遺伝子には強烈なセックスアピールが刻み込まれているんだ。故国を追い出され、世界中で淫売や物乞いみたいな真似をして生き残る必要に駆られたからな」
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