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1|日常
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「ふぁああ~~~……」
大きなあくびをする。なんだか今日は居心地が悪い。相棒とも呼べるギターのピックを手でもてあそびながら、そわそわと心が浮きだっていることを自覚した。それは同じバンドのメンバーもすぐに気づいたようで呆れたような声が頭から降ってくる。
「おいスバル、あともう一回やるぞ」
「あ、うん。ボーっとしてた」
「恋人に気とられちゃダメだよ~」
「マジごめんって~!やろやろ!」
スピカ。俺の一番好きな星。それをバンド名にしてくれたメンバーには感謝してる。少し口調がキツいけど仲間意識の強いツバサも、優しく場を和ませてくれるリョウも、俺にとって欠かせない存在なのは間違いない。
…でも、そんな二人を差し置けるほどの大切な人がいる。
最後のセッションを終えて、いつものように三人でスタジオを出る。音をがなり立てたあとに聞く外の喧騒は不自然に小さく聞こえて、そんな感覚を共有するのが俺は好きだった。
「じゃあ次は来週?」
「うん、またね」
「ちゃんと練習しておけよ」
「了解!」
そう言いあって俺たちは解散した。春の夜を背中に慣れた重みを感じながらゆったりと歩き始める。桜もすっかり散ってしまって、薄桃色の絨毯が電光に照らされて道を指し示してくれているような気がした。あの人がこちらにいると。もうすぐ会えると。
駅前へたどりつけば多くの人が街を闊歩し、自分もその中に混ざっていく。金曜の夜だからか、これから飲みに行きましょうなんて言葉が耳に何度か入ってきた。俺も今日は飲みたいかも、なんてぼんやり思っていると不意に後ろから声がかかる。
「スバルくん」
「!」
急いで俺は振り向いた。その落ち着いた声をずっと求めていたから。
「ヨネちゃん!」
「バンド、お疲れ様です。」
この人は米山ユウゴ。俺こと橘スバルの、大好きな恋人だ。
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