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あの時の、柊君の酷く痛ましい表情は
どうしてか真っ暗な部屋の中でもよく見えて
今までに見たこともない柊君のその顔が
痛くて、辛くて、涙が出た。
そんな僕に柊君はクシャっと顔を歪め、
無理やりに作った笑顔で『ごめん。』と一言だけ残して
また窓の外に消えていったんだ。
それから3日後、柊君は転校してしまった。
僕は最後まであの日の柊君の考えとか、気持ちとか
何もわからないまま、一言も話せないまま、クラスのみんなと彼を送り出した。
…いつまで引きずっているんだろう。
あの顔が忘れられなくて
一人になった後、違和感を覚えて触れた下半身は
信じられないけど…反応していて
教室の隅と、中心
光と、影
柊君を教科書の端をくにゃっと曲げて目で追っていたのは
憧れや尊敬なんかじゃなく
確実な好意だったと気が付いた。
そんなことを考えたところで
もう遅いんだけど。
あの日僕が別の言葉を返していれば
柊君の誘いに応じていれば
未来は、今は、何か違ったのかなって。
…まぁ、そんなわけないよな。
「伊月~!今日からでしょ?起きてる~?」
「起きてるよ!」
お母さん、声おっきいし…。
真夏で窓開いてるのに。
僕の名前丸聞こえじゃん…ばか。
今日からというのは、僕の高校生活が再スタートするという意味で。
去年の夏、少し珍しい病を患ってしまったばっかりに
出席日数不足で留年が確定してしまった。
ただ、僕は年下の後輩たちと同じ教室でもう一年授業を受けるメンタルは残念ながら持ち合わせていないし、
そんな僕の性格を理解してくれる親と教師たちの勧めで
今日から新しい学校…通信制の高校に転入することになった。
距離は家から結構離れているから、1限が始まるのは9時半だというのに6時起き。
教材は予め家に送られてきていて
初日から忘れ物だけはしないようにって、
小学生でもないのに昨日の夜はお母さんと二人で時間割を何度も確認した。
「忘れ物ない?あっても届けてあげないよ!」
「大丈夫だってば!…じゃ、いってきます。」
「ん!気を付けていってこい!」
正直、少しだけ楽しみではあった。
今までの高校は、僕の性格のせいでちょっとうまくいかなくて
進級が危ぶまれます…とか言われた時は
やったあ、辞められるって思っちゃいけないようなことを思ったりもした。
だけど、これから行くところは
途中入学も自主退学も日常茶飯事の僕には理解しがたい場所で
自立して働いている人や、心に何か悩みを抱えている人
色々いるらしい。
それなら僕でもなんとかやっていけるんじゃないかって
少しの不安と大きな期待をもって
いつもは使わない特急の電車に飛び込んだ。
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