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狡い僕は、叱られた
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「ぁ、の………」
言葉を紡ぎかけた僕の後頭部に、ぱしんっと平手の感触。
触れた手の持ち主を確認する前に、僕は頭を下げさせられていた。
「ごめんなさい。僕は、他に好きな人がいます」
…僕の気持ちを代弁する僕じゃない声。
この手と声の持ち主は。
「静…?」
お辞儀をしたままに、視線だけをちらりと向ければ、同じように頭を下げた畠中 静(はたなか せい)の姿が視界の端に映った。
茶色いほわほわの髪に真ん丸な瞳。
ちょこまかと動く姿は小動物だ。
それほど小さくもないが、細い身体は、頼り無ささえ感じる。
そこに存在するだけで、庇護欲をそそられる…、それが静だ。
「そっか……。だよね。…うん、ごめんね、忘れて」
まとまりのない言葉を放った女の子。
静から彼女へと向けた僕の瞳には、残念だけど仕方ないと言いたげな寂しげな笑顔が映る。
僕は、静の手を押し退けるように頭を上げた。
「忘れないよ、ありがとう。応えられない、けど…でも、ありがとう」
焦り放つ僕の言葉に、目の前の彼女の頬がぷくりと膨れた。
「優しくしないでよ。吹っ切りたいのに、吹っ切れなくなるじゃんっ」
「ぁ、……その」
「吹っ切って。天馬は、オレのだから」
言い淀む僕の横から、静の声が飛んできた。
静は親指を立て、僕は自分のものだと主張する。
「何、言ってんの? あんたには篠原くんがいるでしょーが」
きゅっと眉根を寄せた彼女は、怪訝な瞳を静へと向けた。
「あれはあれ。これはこれ。天馬もオレのっ」
弾むような声を放った静は、横から俺に抱きついた。
はぁあっと大袈裟な溜め息を吐いた彼女が、徐に口を開く。
「失恋したのに、なんでこんなに悲しくならないのかな? 腹立つより呆れの方が勝っちゃったよ」
困ったように笑った彼女は、新しい恋するぞーと叫びながら、僕らの前から去っていった。
彼女の後ろ姿を、ぽかんと見やる僕。
その視界に、にょきりと生えてくる静の顔。
「お前、何やってんの? ちゃんとごめんなさいしないとダメじゃん」
静は、むぅっと不機嫌そうな顔で言葉を続ける。
「お前、女の子、恋愛対象じゃないだろ? 同性が好きとかは暴露しなくていいけど、他に好きな人がいるから君にチャンスはないよって、ちゃんと言ってあげないと…。中途半端な優しさは、相手を傷つけるだけだよ?」
腰に手を当て仁王立ちした静は、小さい子供を叱るような声で柔らかく言い聞かせてくる。
「ぁ……うん、ごめん」
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