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プロローグ《6》
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思わず「ふっ……」と笑うと、「んぇ……?」とリトが間抜けな声をあげる。
「まだ、こわい?」
小さい子どもに言うように、幼さの残る顔を至近距離から見下ろし頬を撫でる。
「ぇ…ぃ、いや……」
リトの顔が真っ赤に染まっていき、視線が忙しなく泳いだ。
「いいよ、強がらなくて。……怖かったろ」
顔を離し、仰向けに寝転がるリトの隣に腰を下ろす。そのまま頭を撫でていると、張っていた糸が切れたように、堪えきれなくなったのか、リトの目に涙が溜まっていった。
そして、堰《せき》を切ったようにボロボロと泣き出した。
「……す、…すげぇ怖かった、本当は…逃げたかった、……けどっ、全然声出ないし……ち、ちから強くてビクともしないし、……ど、どうしていいかわかんなくて…っ」
どんどんと嗚咽が混ざって話せなくなっていくリトの頭を、よしよしと撫で続ける。
ぽたぽたと目尻を伝う涙が、シーツに落ちては吸い込まれていった。
「痛くて……っ、苦しくて…、死ぬかとおもったッ……!」
手の甲で目元を拭いながら、子どものように泣きじゃくるリトが落ち着くのを待つ。
「……わかるよ。俺もそうだったから」
しゃくり上げるリトの姿が過去の自分と重なる。
「俺も子どもの頃、知らない男に無理やり犯された」
リトの目が信じられないとでも言うように見開き、それに小さく苦笑を返す。
「痛くて痛くて、何をされてるのかよくわからなかった。とにかく早く終われって、心の中で叫んでたのを覚えてる」
俺の顔をリトがじっと見つめてくる。
「でも、終わってからが俺にとっては本当の地獄だった。身体中生臭いし、あちこち痛いし……そんな俺に母親は別の客を連れてきた。もう処女《ヴァージン》じゃないからって、それから毎日のように客を取らされるようになった」
「え……」
「俺の母親も売春婦だったから。父親は客の誰か。俺は母親に似て、こんな髪で、こんな顔だったし、オメガだったから、早く客を取らせて稼ぎたかったんだろうな」
言いながら自分の白っぽく色素の薄い髪をかき上げる。
言葉に詰まった様子のリトを見ながら、何でこんなやつに身の上話なんかしてんだろうな、と思った。
「ろくに学校にも行かせてもらえないまま、それからずっとボーイとして働いてる。六年前に母親が死んで、俺は自由になった。でも、今更、どこかに行きたいとも思わない。俺はここで一生男に抱かれて、母親のように死ぬのをただ待ってる」
自虐的に笑うと、止まったと思っていたリトの目からまた涙が溢れ出した。そして、リトはなぜか身体を起こすと、俺の首にギュッと抱きついてきた。
「……何だよ」
予期せぬ行動に驚いて固まる。リトは再びしゃくりあげながら、俺の肩で泣き出した。
「そんなのッ、ツラいじゃん……」
嗚咽混じりにリトが呟く。
一瞬なにを言われたのかわからなかったが、理解した途端、胸が苦しくなった。
動揺を悟られないように、抱きつくリトの背中に手を添えることしかできない。
──俺は、ツラかったのか。
涙は出なかった。
そのまま明け方まで、泣きじゃくるリトを慰めながら過ごした。
朝になり自分の部屋に戻って寝直そうとしたが、なかなか寝付けないまま時間だけが過ぎていった。
昼時に押しかけてきたイツキと一緒に食事を済ませ、オーナーの仕事の手伝いをしている内にあっという間に営業時間を迎えた。
男たちに抱かれるために。
今夜も俺は、Ωの香りを纏う。
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