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第三章「痛みの香り」《2》
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オフィスビルが立ち並ぶ街中で、一際目を引く高層ビルの最上階。いつもと同じように貸し切りのそのレストランで、フレンチのフルコースを振る舞われる。
この後のことを考え、ほとんど料理には手をつけず、出されたものを黙って見送った。そんな俺を特に気にすることもなく、アオさんは俺に一方的に話しかけては一人で楽しそうに笑みを浮かべる。
「やっぱり、レイは“母親”似だなぁ。“十年前”よりどんどん美人になってる。ホント俺好み」
「……」
わざとらしく「母親」「十年前」という言葉を使うアオさんに、隠すことなく侮蔑の目を向ける。
「……その話は」
「わかってるよ。『嫌いだからやめろ』、だろ?」
俺の言葉を遮りながら、「やっと喋ったな?」とニヤニヤ笑うアオさんに眉をひそめた。
一面ガラス張りになっただだっ広いフロアを見回すも、遠巻きに秘書である男とウエイターがいるくらいで他には誰もいない。煌びやかな繁華街を一望できる窓の外の夜景も、この男と一緒にいる状況ではひどく煩わしく思えた。
アオさんのヘラヘラとしたペースに呑まれないように、透明なグラスに注がれた赤い水面に意識を移す。
この人のことだから何か入れていそうだと思い、一度も手をつけずにいるそのワイングラスを、わざとらしく手に取り揺らしてみせた。
「別に今日はなんも入れてねぇよ?」
「どうだか」
片方の眉を上げてわざとらしく笑うアオさんに、無表情のまま冷たく返す。
ふとどうしたって思い出すのは十年前のあの日。
飲み物に薬を盛られ、十四歳で初めて発情期を迎えた日。
大勢の男たちが俺を見つめる中、真っ先にそれはそれは楽しそうに、泣き叫ぶ俺をレイプした男。
あの頃と何も変わらない顔のまま、アオさんはニコニコと笑みを浮かべる。
日本生まれ日本育ちらしいが、外国の血を引くアオさんは、その大きな体と腕のように太い性器で十四歳の俺を初めて犯した張本人だ。
同時に、恍惚とした表情を浮かべる今は亡き母親の姿も思い出す。自分の息子がこの男に犯され泣き叫ぶ隣で、嬉しそうに別の男のモノを咥えこんでいた。
そういう人だった。
「そんな顔すんなって」
昔のことを思い出し、あからさまに表情を暗くすると、そうさせたのが自分であることなど忘れてしまったかのように、アオさんは笑った。向かいの席から腕が伸びてきて、その手に頬を撫でられる。
「楽しいのはまだこれからだろ?」
その言葉に余計に表情を暗くすると、アオさんはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「新しいボトルを」
アオさんはウエイターを指で呼びつけると、そう言って新しく如何にも高そうなワインを持ってこさせた。
目の前でウエイターが栓を開けたボトルを手に取り、アオさんがその中身を自分のグラスに注ぎ入れる。そして、楽しそうな笑みを浮かべたかと思うと、新しいグラスを俺に差し出した。
「レ〜イ?」
促され、それを渋々受け取ると、ボトルの中の赤い液体をグラスに注がれる。
「はい、乾杯」
一方的に当てられたグラスがカンッと高い音を立てた。目の前の男が味わいもせずに、中身を一気に飲み干すのを静かに見つめる。
自分の手元に残されたグラスに視線を移し、こちらをニッコリと笑って見つめる顔を見ないようにしながら、渋々それに口をつけた。
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