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第三章「痛みの香り」《5》
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アオさんは一七○センチ以上ある俺を軽々とベッドに押し倒し、身につけていた残りのシャツや下着を強引に剥ぎ取った。
酸欠で身体に力が入らず、ベッドの上に四肢を投げ出したまま、回らない頭で次は何をされるのかと視線を彷徨わせる。
アオさんは目をギラギラとさせ、ニタァと獣のような笑みを浮かべていた。気づけばその手には、棚から取り出したらしい細い鎖が握られている。
首輪だけを身につけた状態で、ベッドの頭側の柵に両手を縛り付けられた。容赦なくギチギチと締め付けられた手首に、鎖が食いこんでいるのが見えなくてもわかった。
意識して呼吸を繰り返し、何とか頭の痛みを軽減させようと必死だった。
気づけば、アオさんは着ていたジャケットとズボンを脱ぎ捨て、白いシャツを羽織っただけの格好になっていた。虚ろな目をしたままの俺の上に覆い被さると、容赦なく耳たぶに歯を立ててくる。
「……ッ」
ゴリッという振動のあと、痛みと熱が噛まれた耳から伝わってきた。
アオさんは、そのまま首筋を舌で辿りながら、首輪で守られたうなじに不満そうに眉をひそめた。
「いい加減、俺の番《つがい》になれよ。お前の首なら、いつでも噛んでやる」
「な?」と男臭い笑みを浮かべるその顔から、わざとらしく目を逸らす。
「……噛まれるくらいなら死んだ方がマシだ」
ボソリとそれだけ返すと、アオさんが微かに笑ったのがわかった。
「レイ」
不意に真剣な声音で名前を呼ばれ、逸らしていた視線を戻す。アオさんの目が明らかに欲情と加虐に満ちていて、寒気に似たものが背筋を駆けた。
少しの間をおいてから、それまでのヘラヘラとした笑みを引っ込めたアオさんが口を開く。
「どっかのオメガの匂いつけて来るなんて、いい度胸してんのな」
言われた言葉に一瞬思考が止まる。思わず大きく目を見開いてしまった。
「気づかれてないとでも思ってたのか? お前を迎えに来た時から、香水と混ざって匂ってたぜ? 俺は鼻がいいからな」
アオさんは下卑た笑い声を上げながら、「特に発情期の臭いには敏感なんだよ」と心底楽しそうに目を細めた。その顔を見て、心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
そして、最も恐れていた言葉がその口から紡がれた。
「どんなオメガだ? 連れて来いよ」
悪意に満ちた目が、俺を真っ直ぐに見下ろしていた。
容赦なく歯を立てられた皮膚が、ブチブチと悲鳴をあげる。噛まれたところにはアオさんの歯型がくっきりと残り、じわりと血を滲ませていた。
鎖骨、肩、腕、胸、腹、腰、太もも、足先。
全身を埋め尽くすように、淡々と身体に噛み痕が刻まれていく。
その痛みにはじめは一々肩を跳ね上げていたが、段々と痛覚は麻痺し、徐々に反応しなくなって行った。
鎖を巻かれた手首から指先は、痺れてしまってもう感覚がない。
自分の置かれている状況が他人事のように思えてきて、意識を遠くに飛ばしていると、ヒュッという風を切る音とほぼ同時に、左頬に衝撃が走った。
「ガッ……、!」
強烈な痛みと熱が、左頬から急速に広がってくる。口の中で血の味がしたのと、殴られたことを理解したのは一拍遅れてからだった。
「レイ、俺の言ったこと聞いてたか?」
殴られた衝撃のまま顔を横に向けていると、ズキズキと頬が痛み始めた。
「そのオメガを連れて来いって言ってんだよ」
髪を掴まれ、強制的に上を向かされる。
「ッ………」
狂気に満ちた瞳と目が合った。この男は、自分よりも弱い存在を痛めつけるのが大好きなサディストだ。恐怖で人を支配することに長けている。
嫌と言うほど教え込まれてきた痛みに、この男に逆らってはいけないと頭ではわかっていた。でも、今回だけは従うことはできない。
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