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第四章「好きな香り」《8》
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「ごめんね、すぐ終わらせるからッ……」
裸になったレイさんの後ろにまわり込み、痛々しく血を滲ませる傷たちを手当てしていく。順調に絆創膏やらガーゼやらを貼り付け終わると、ふと首輪が目に入った。
「レイさん、これは外さないの……?」
控えめに聞いてみると、レイさんはゆっくりと手を持ち上げて首輪に触れ、何かを考えるようにその縁をなぞる。
「……いいよ、外しても」
少しの間のあと、小さくうつむいたレイさんから、消え入りそうな声が返ってきた。
「え……」
言われて首輪に視線を戻す。よく見ると、横のところに四桁の数字を打ち込むダイヤルがついていた。
外していいと言われても、どうしていいかわからない。
戸惑っているのが伝わったのか、レイさんは正座をして座る俺の左隣にゆっくりと移動すると、俺に背中を向けたままあぐらをかいて座った。そして、そのまま俺の左肩に自分の左耳を押し付けるようにもたれかかってくる。
「お前の……誕生日……」
あまりにも小さい声で言われたものだから、危うく聞き逃すところだった。
「……え?」
数秒の静寂が流れたあと、その言葉の意味がわかって、ボッと火が出そうなくらい一気に顔が熱くなる。
思考が追いつかなくて、口をバカみたいに開けたまま固まっていると、レイさんが横目でこちらを見ているのに気がついた。
その顔は拗ねているような、怒っているような、なんだが不安そうな顔だった。
そんなレイさんに気付いてしまったら、どうしようもなく心臓が締め付けられた。
どうしよ、俺……。
レイさんのこと、たぶん、めちゃくちゃ好きだ……。
俺に向けられた背中がやけに小さく見える。
背中に散りばめられたいくつもの鬱血の跡と歯型。痛々しいそれらを視界に捉えながら、恐る恐る震える指をレイさんの首に伸ばした。
カチカチと音をさせながら、慎重に首輪のダイヤルを回していく。
指先に集中しようとするけど、こんな状況で落ち着いていられるわけもなくて、微かに手が震えた。焦る気持ちを抑え、自惚れてるかもしれないと思いながら、ダイヤルを回し終える。
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カチッと音を立てて首輪は外れた。
こんなに心臓がうるさいのは、生まれて初めてだった。
首輪の跡を無意識に指でなぞると、くすぐったかったのかレイさんが小さく肩を揺らす。
「……もういいか?」
レイさんはそう言うと俺から逃げるように身体を離し、脱いであったバスローブに再び腕を通し始めた。
その態度は今までの俺だったら、何か怒らせるようなことをしたのかと狼狽えたかもしれない。でも、自惚れてしまっている今の俺には、どう見ても、レイさんが恥ずかしくて俺から顔を隠したがっているようにしか見えなかった。
「レ、レイさん……!」
こちらに背中を向けるレイさんに、思わず抱きついていた。
「ッ……! な、なんだよ……」
レイさんは驚いたようにこちらを振り返ると、俺から身体を離そうと肘で押してくる。
でも、どうしても離れたくなくて、傷を刺激しない程度にギュッと抱きついたまま、ぐりぐりとレイさんに頭をすり寄せた。
「俺、レイさんのことが好きです」
俺の言葉に、レイさんがピタッと動きを止める。
「めちゃめちゃ好きです」
バッと勢いよく顔を上げて、驚いた顔をするレイさんの目をじっと覗き込んだ。
「たぶん、レイさんも俺のことが好きだと思う」
なぜか確信めいたものを感じて、ハッキリと口にする。すると、レイさんの目が大きく見開かれた。
「……」
じっと待っていても何も言ってくれないレイさんに不安になって、抱きついていた腕を少し緩める。小さく距離をとって顔を見ていると、目を泳がせたレイさんが徐々に顔を赤くしていくのがわかった。
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