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第四章「好きな香り」《9》
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「レイさん顔……むぐ」
それを指摘しようと口を開くと、バチンッと音がしそうなほど勢いよく手で口を塞がれた。
そのまま顔を押され、強制的に距離を取らされる。
レイさんは反対の手で自分の口元を隠しながら、俺から顔を逸らした。
「なんなんだ……お前」
レイさんらしくない弱々しい声だった。
泣いてるのかと思って顔を覗き込もうとしたら、逃げるように枕の方へと移動して行ってしまう。
逃げるレイさんを追いかけて一緒にベッドの頭側に移動しようとすると、バフッと急に枕を投げつけられた。
「ぅぶっ」
「来なくていい」
そう言ってレイさんは別の枕を手に取り、壁に寄りかかる。枕を胸元に抱きしめながら、それに顔を埋めるようにうつむいてしまった。
「レイさん……?」
静かになったレイさんの名前を呼んでみても反応がない。恐る恐る近づいていくと、レイさんの肩が僅かに震えているのに気がついた。
「レイさん」
すぐ近くまで行って、震える身体を抱きしめるように腕を回す。
「……レイさん、好きだよ」
耳元でもう一度そう言い、弱々しく縮こまる身体をより一層強く抱きしめた。
「ねぇ、レイさん……」
それでも何も言ってくれないレイさんに段々と不安になってきて、おでこ同士を合わせるように擦り寄る。
すると、レイさんは諦めたようにゆっくりと顔を上げてくれた。泣いてるのかと思ったけど、涙は出ていなかった。
赤く腫れた目と視線を絡ませると、少しの静寂が流れたあと、どちらからともなく唇を合わせた。
チュッと小さく音を立てて、すぐに唇は離れていく。その感触が名残惜しくて、無意識に目を細めた。
レイさんは気まずそうに一瞬視線を彷徨わせると、不意に俺の口端を指で拭う。
「悪い……」
その言葉に、レイさんの切れた口端に目がいった。恐らく、そこから滲んでいた血が俺の口についたんだと思う。
申し訳なさそうに眉を下げるレイさんに、何だか切ない気持ちが込み上げた。グッと近づいてその傷口を舐め、何か言いたげな口を塞ぐように、今度は俺からキスをした。
グチュッと小さく音を立てて、レイさんの唇に舌を這わせる。もちろんレイさんの方がキスは上手いんだろうけど、レイさんは俺にされるがままに唇を委ねてくれた。
「ン…ふ、……」
傷に染みるのか、レイさんの口から苦しそうな吐息が漏れる。柔らかい舌の感触を味わいながら舌を絡めると、レイさんの手が俺の胸元を控えめに掴んだ。
心臓がジンジンして、どんどん鼓動が早くなっていく。どちらのかわからない唾液がポタポタと零れ始めた頃になってから、静かに口を離した。
レイさんの目がとろんとして、唇が唾液で光っている。それを見て下腹部に熱が集まるのを感じたけど、気付かないふりをした。
「ご、ごめんなさい。疲れてるのに……」
ふと我に返って、レイさんから距離を取る。
自分がとんでもないことをしているんじゃないかと、ようやく気がついた。
ベッドの上で正座に座り直して、自分でもわかるくらい熱くなった顔を隠すようにベッドに突っ伏す。
なんだか土下座をしているみたいな感じになってしまった。
「ふッ………」
内心そう思いながらも動けずにいると、不意に笑い声が聞こえて顔をあげた。その先には眉間にシワを寄せて、口元を隠しながら笑うレイさんがいた。
「あっはは、……お前ってほんと」
堪えきれないようにくしゃっと笑う顔に、心臓がドキッとする。
「犬みたいだな」
そう言ってまた笑ったレイさんに釣られて一緒に笑った。
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