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第五章「揺れる香り」《2》
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──レイside──
心地よい体温を感じながら、ゆっくりと目を覚ます。
隣で当たり前のように眠るリトを見て、思わず心臓が痛くなった。
あぁ……俺、リトに……。
真剣な顔で告白するリトを思い出す。
『たぶん、レイさんも俺のことが好きだと思う』
自信満々にそう言ったリトを思い出して、笑いが込み上げそうになった。
6歳も年下のガキに何を言わせてるんだか……。
自分で自分が情けない。
未だに違和感の残る首元に触れる。いつもなら、こんなに早く首輪を外すことなんて有り得なかった。
いつもはあの人が去って何日も経ってから、ようやく首輪を外すことが出来ていた。それくらい俺にとって、アルファであるあの男は恐怖の対象だ。
幼さの残る顔でスヤスヤと寝息を立てるリトの頬を撫でる。
……温かい。
なぜ今さら、他人に心を許したりなんかしているんだろうか。
くすぐったそうに身じろぐリトを見ながら、思わず自分に苛立ってしまう。人を好きになる資格も、好きになってもらう資格も、幸せになる資格も、俺にはないのに。
自分の過去をリトに話すことができない。
それだけの、許されないことをしてきた。
死ぬまで付き纏う自分の過去から、リトと一緒にどこか遠くへ逃げられたらいいのにと馬鹿げたことを思ってしまった。
不意にじっと見ていた顔と目が合う。間抜けな顔をしながら、リトが目を覚ました。
「あれ、俺いつの間に寝て……」
そう言って身体を起こしたリトは、俺に向かって照れくさそうに笑うと「おはよう、レイさん」と目を細めた。
「ん……」
何だか恥ずかしくて、それに素っ気なく返す。目が覚めてからずっと、すっかり嗅ぎ慣れた香りが鼻腔をくすぐっていた。
胸元に犬のように抱きついてくるその匂いの主を押し返しながら、酷く安心している自分がいる。
「リト、お前ちゃんと抑制剤飲んでるのか……」
グリグリと頭を擦り寄せてくるリトの髪に指を絡めながら言うと、リトは「忘れてた……!」と慌ただしく寝室を出ていった。
ヒート中にあれだけ動き回れるなら、大丈夫そうだな。
そう思いながら、離れていった香りと温もりに自分が寂しさを感じていることに気が付かなかった。
しばらくして戻ってきたリトは、おぼんに何やらお皿を乗せて帰ってきた。
「たまご粥作ったんだけど……食べられる?」
そう言って湯気の立つお皿を目の前に差し出される。
「お前が……?」
正直リトが料理をできることは意外だった。俺の問いかけに「へへっ」と照れくさそうに笑うと、リトは「味は保証できないけどね」と続けた。
困惑しながらも痛む身体をゆっくりと起こし、それを受け取る。熱そうな中身をスプーンで掬い、静かに息を吹きかけてから、恐る恐る口に運んだ。
「……おいしい」
熱さが口元の傷に染みたが、素直に思ったことを口にする。リトは嬉しそうに笑うと「本当? やった〜!」と見えない尻尾を振った。
「レイさんって料理するの?」
「いや、全く」
ベッドの横に椅子を持ってきて座りながら、リトが聞いてくる。スプーンを口に運びつつ、そう返事をした。
「え、そうなの?」
自分の分のたまごがゆをスプーンで掬い上げると、リトは意外そうに首を傾げた。
「だって、冷蔵庫の中に色々入ってたよ」
その言葉に「ああ」と頷く。
「それは、カオルだな」
リトの方を見ずに答えると、「カオル?」と不思議そうな声が返ってきた。
「そうか。お前は夜中に受付に行かないから会わないのかもな」
不思議そうな顔で俺の顔を見るリトに“カオル”の説明をしてやる。
「カオルってのは、オーナーの番《つがい》だ」
「え、オーナー結婚してるの!?」
いきなり大声を出すリトに「うるさい」と眉間にシワを寄せると、リトは慌てて口を噤んだ。
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