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第五章「揺れる香り」《3》
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「カオルは、オーナーと交代でここの受付をやってる。基本的にはオーナーが専属だから、あくまでカオルはオーナーが休憩中の代役って感じだな」
リトは俺の説明に「へぇ…!」大袈裟に相槌を打った。
「ここの隣にある部屋でオーナーと一緒に住んでるんだが、しょっちゅう喧嘩しては、この部屋に勝手に来て、ものを増やしていくんだよ」
最近はリトの部屋にいることが多かったから、カオルに会うこともなかった。冷蔵庫に色々入っていたのなら、俺がいない間も勝手にここに来ていたってことなんだろう。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど……」
俺が話すのをやめると、徐ろにリトが口を開く。
「オーナーってもしかしてアルファ……?」
自分で言いながら、半信半疑の様子のリトに首を縦に振る。
「ああ。でも、オーナーは少し特殊なアルファだな」
「特殊?」
リトはキョトンと首を傾げ、目をパチパチと瞬かせた。
「オーナーは、病気で生殖機能がない。番関係は結べるが、勃起も射精もできない。発情を引き起こす臓器がないから、オメガのヒートにも当てられない」
「へぇ……」と驚いた顔をするリトから、視線を外し食事を続ける。
「じゃあそのカオルさんって人はオメガなの?」
「ああ」
リトは目を大きく見開くと、「どんな人!?」とその目を輝かせた。
「どんな人って……んー、会ってみるか?」
カオルを形容する言葉を考えたが、『お節介』『口うるさい』『悪趣味』など、ロクな言葉が見つからず、すぐに考えるのが面倒になった。
「会えるの!?」
そう言って見えない尻尾をパタパタと振るリトに、「会おうと思えば」と返す。
たまごがゆの最後の一口を口に入れながら、何故か嬉しそうにしているリトに腹が立つのを感じた。
「……なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
ありのまま思ったことを口にしてみる。するとリトは「え?」と口元に笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「だって俺、レイさん以外、オメガの人に会ったことないもん」
「え?」
しれっと言われたその言葉に、今度はこっちが驚く番だった。
「お前、俺以外にオメガ性のやつに会ったことないのか?」
あっけらかんとした顔で、「レイさんが初めてだよ」と当たり前のように返してくるリトに、グラッと視界が回るような感覚を覚える。
そんなことありえるのか……。
オメガのことすら知らない状態でよくここに来たな……。だから、オメガのくせに俺のフェロモンに充てられやすかったのか……?
数日前の出来事を思い出しながら、思わず頭を抱える。
「レイさん? 大丈夫? やっぱりまだ休んでた方が……」
俺の手から空になった皿を回収すると、リトは心配そうに顔を覗き込んできた。
「リト……お前なんで俺が好きなんだ?」
気付けば、考えていたことが口から出てしまっていた。
「えっ」とリトが赤面して固まる。
こいつは自分と同じオメガである俺に親近感を覚えて、懐いているだけじゃないのか?
自分の考えにげんなりと気分が滅入っていくのがわかる。
こいつはただ単純に、慣れない環境の中で一番長く一緒に過ごしている俺を好きだと錯覚しているんじゃないか?
そう思ったら、自分の頭がスーッと冷えていくのがわかった。
……俺は馬鹿か。
何だか泣きそうになっている自分に戸惑う。こんな子ども相手に、何を本気になりかけているんだ。
突然眉間にシワを寄せて黙り込む俺に、リトは困った顔でオロオロとし始めた。
「レ、イさん?」
恐る恐るという風に声をかけてくるリトの顔を見れない。
身の程も弁えず、人を好きになろうとした自分が情けない。
深くため息を吐いて、「……寝る」と言ってそのまま布団に潜り込んだ。「う、うん」とリトがぎこちなく返してくるのを背中で聞きながら、逃げるように目を閉じた。
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