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第六章「過去の香り」《2》
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この店では、売り上げが全て。
決められたノルマ分の売り上げを満たせなければ、簡単に処分されてしまう。ここにいる者たちの多くが、戸籍を持たず、借金にまみれ、表の社会では容易に生きられない者たちばかりだった。
稼ぐことができず、行く宛てもない者は四肢を切断され、一時の娯楽として金持ちたちに売られる。彼らは生身のダッチワイフとして飼われたのち、約一週間ほどで感染症を引き起こして命を落とす。
そんな非人道的な行為が横行していても、誰も罪には問われない。客たちは社会で権力を持つ者ばかりで、自身の性癖を曝け出せるこの場所の存在を静かに隠した。
ここは社会から見放された、Ωが性奴隷として扱われる劣悪な場所だった。
しかし、そんな場所にも希望はある。
この店で好成績を収めれば、そこには確固たる地位が与えられた。優秀なαでさえ、召使いのように従えることができる。
そのため、この店のΩたちは、劣悪な環境にあっても互いに助け合うことはせず、ただ客を奪い合い、死を待つだけのダッチワイフに成り下がらないように、必死になって身体を売っていた。
レイはそんな世界で、オーナーの寵愛とαを従えるだけの美貌を持つ、“ジュリ”という売り上げNo.1のΩのもとに産まれた。
レイは髪色や顔立ちこそジュリによく似ていたが、瞳の色だけはジュリの暗い色と違って、灰色が青みがかった色をしていた。
Ωであり容姿に富んだレイは、ここでは明らかに希少な存在だったが、まだ幼かったために客の目につかないようにひっそりと育てられていた。
学校になど行かせてもらえないまま、ジュリの雇った家庭教師に教養を学び、男娼として必要な技術を実の母親であるジュリから教わる。
店には同じように、店のガールやボーイが産んだ子どもが何人かいた。その中にはカオルもいたが、彼らもまた劣悪な環境で育てられ、互いに交流を持つことはなかった。
孤独で異質な生活の中、レイは十四歳の誕生日を迎える。
それまで必要最低限しか他者との接触を許されなかったレイが、初めて人前に出され、誕生日会と称して盛大なパーティーを開かれた。
初めて見る煌びやかな明かり。着飾った人々。色とりどりの豪勢な食事。陽気な音楽。
そして、じっとりと絡みつくような多くの視線。
母親の愛情に飢えた、ようやく声変わりが始まったばかりの、幼さの残る容姿と滑らかな肌を持つ子ども。
欲情も快楽も何も知らないその瞳が、初めて見る大勢の大人たちに恐怖を表した。
「初めまして。綺麗だね」
『犯したい』
「お誕生日おめでとう。ずっと君に会ってみたかったんだ」
『欲しい』
「こっちにおいで。何か欲しいものはあるかな?」
『壊したい』
知らない大人たちから、次々と言葉が投げかけられる。その顔はみな笑っていたが、視線はねっとりと絡み嫌な感覚をレイに与えた。
思わず母親の後ろに隠れ、その背中にレイはしがみついた。
「何してるのレイ。お客様に失礼でしょう」
煌びやかな衣装を纏ったジュリは、ニッコリと笑みを浮かべる。
その笑顔にビクリッと体を震わせると、レイは掴んでいたジュリの服から手を離した。
「ご、ごめんなさい……」
レイは珍しく綺麗な洋服を着せられ、髪もキッチリとセットされていた。首にはその意味もまだ知らない、うなじを守るための首輪が不自然につけられている。
レイは自分だけがこの場で異質な存在だと、幼いながらに感じ取っていた。しかし、本当はこの場所こそが異質なものであるということを、外の世界を知らないレイは気づけなかった。
人の波から逃げるように会場の隅に逃げたレイは、息を殺し、ただでさえ幼さの残るその身体を小さく縮めた。
目を閉じ、両手で耳を塞ぎ、窓際に置かれていた観葉植物の鉢に身を潜めるようにしゃがみ込む。
そんなレイにコツコツと革靴の音を響かせながら、一人の男が近付いてきた。
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