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第七章「嫉妬の香り」《6》
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ガラガラと重たい清掃カートを押しながら、二人で客室に向かう。一つ一つ作業を教えてもらい、ベット、床、テーブル、浴室、トイレを綺麗にして、最後に備品を補充して終わり。
これを一人でやるのは、結構大変そう。
「慣れたら時給もいいし、稼げる仕事やと思うで俺は〜」
三時間ほど経ち、疲れてぐったりとしている俺に、先輩はそう言ってニカッと笑った。
先輩と二人、カートを押して廊下を歩く。零時が近づくにつれ、お客さんが一斉に帰り始め、俺たち清掃スタッフは大忙しだった。
数をこなしている内に、だんだん作業にも慣れてきた。他の清掃スタッフの人とも分担して、使用済みの客室を元通りに片付けていく。
ほとんどの部屋を掃除し終え、割り振られた最後の部屋へと向かいながら、先輩とわいわいお喋りが弾む。
「え! リトぽん、オメガなん!?」
「あはは、そうです……」
大袈裟なほど驚いて見せる先輩に、苦笑を返す。
防音のせいか静まり返った廊下に、カートを押す音と俺たちの声だけが聞こえる。
「そうなんや〜、確かに可愛い顔してるもんなぁ……」
まじまじと見られて、思わず笑い声をあげる。
「ははっ、可愛いって! 俺に言う言葉じゃないっすよ!」
可愛いっていうのは、イツキさんとかに似合う言葉だと思う。俺なんて18歳にもなって、未だに子どもっぽさが抜けないし、学生のときはよく上級生に目をつけられていた。
友達とバカ騒ぎして、先生にも怒られてばっかりだった。
ふと、昔のことを思い出して懐かしくなる。
学校に通い続けていたら、この先輩みたいな人ときっと仲良くなっていたはずだ。
「いやいや、可愛いって! ボーイやった方が稼げるんちゃう?」
不意に痛いところを突かれた。
「はは……まぁ、そうですね……」
何とも言えない答えにくさを感じていると、先輩は何かを察してくれたのか「まぁ、そんな簡単じゃないか〜」とあっさり流してくれる。
「俺、ただのベータやし、こんな見た目やからボーイなんて到底無理やけど、ここで働いてる人らのこと、すげぇなぁって尊敬してるねん」
言いながら、先輩はニコニコと笑った。
「裏方やし、そんなにボーイの人らと会うこともないけど、自分の体を武器にして金稼ぐって才能がないとできひんことやわ」
目的の部屋にたどり着きドアを開けながら、先輩は何だか嬉しそうだった。レイさんやイツキさんのことを知っているだけに、何だか俺まで嬉しくなってくる。
「まぁ、やりたくてやってるんじゃない人も、大勢おるやろうけど」
そう言って苦笑した先輩と一緒に、生々しく情事の跡の残る部屋を片付けた。
────
「あ」
掃除が終わり、先輩と控え室に戻っているところだった。
押していたカートの向こうに、見覚えのある人を見つけ、思わず声が出た。
お客さんであろう男の人に腰を抱かれながら、ピッタリと寄り添うようにしてこちらへ歩いてくる。
ここ数日ですっかり見慣れてしまった白い髪。
「リトぽん、もっと端寄りな」
先輩に小声で言われ、道を開けるようにカートを廊下の壁に寄せる。
近づいてくるその姿を無意識に目で追っていた。俺の横を通り過ぎる一瞬、その人は目を細め微かに笑った。
『見すぎ』
そう言われたような気がして、途端に恥ずかしくなる。
コツコツと遠ざかっていく足音を聞きながら、先輩に動揺を悟られないように唇を噛んだ。
「すんごい美人よなぁ、あの人!」
誰もいなくなった廊下で、先輩が興奮したようにはしゃぎだす。
「あの人がここのNo.1ボーイやで!」
先輩は「滅多にお目にかかれへん! リトぽん、ラッキーやな〜」と、嬉しそうに笑った。それを見て、俺は何だか複雑な気持ちだ。
別にレイさんとのことを隠すつもりはないけど、先輩の目に何だか熱がこもっていて戸惑ってしまう。
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