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第七章「嫉妬の香り」《11》
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「あーあ、そんな顔しないでよ〜。僕オメガだけどさ、そんな顔で見つめられると」
目の前の顔がにっこりと笑みを深める。
「犯したくなる」
その目は冗談なんて言っていなかった。
身体が強ばって、顔が引きつる。情けないほど身体が震えて動けない。
「でも、そっかぁ。じゃあ、あの噂はウソだったのかな。だって、僕でもレイさんに抱いてもらったことあるのに、付き合ってるやつがセックスしたことないわけないもんね〜?」
「ッ……」
自分でも密かに気にしているところを突かれ、ぐっと唇を噛み締める。何も言い返せなかった。
「……まぁ、どうでもいいけどさ。あんまマジにならない方がいいよ。レイさんは、お前みたいなのが近づいていい人じゃないから」
口元に笑みを浮かべていても、その目は冷たく俺を見据えていた。
「身の程を弁えろ、ガキ」
男が俺の耳へ顔を寄せ、顔に似合わない低い声でそう言った。
「じゃ。またね、リトくん」
ビクリと肩を震わせる俺に、男はフッと笑うと、ヒラヒラと手を振りながら部屋を出ていった。
扉が閉まる音に一気に力が抜ける。へなへなと床に座り込んで、震える身体を抱きしめた。
────
仕事を終え、部屋に帰って来てもまだレイさんは戻っていなかった。
オーナーも忙しそうで、何より自分が情けなくて、さっきのことを誰にも話せずにいた。
「はぁ……」
本当に情けない。なんで肝心なときに、いつも動けなくなっちゃうんだ。
誰もいないリビングのソファで、クッションに顔をうずめる。早くレイさんに帰って来てほしかった。
ガタンッ。
大きな音を立てて、玄関のドアが閉まる音が聞こえる。
ウトウトしている間に、気づけば朝六時を過ぎていた。ソファから立ち上がり、リビングの扉へと近づいていく。
「おかえり、遅かった……ね」
ドアを開け、思わず血の気が引いた。カオルさんがぐったりとした様子のレイさんを、玄関に下ろしたところだった。
「ど、どうしたんですか!?」
カオルさんは「あー重かった」と肩を回しながら、「久しぶり」と俺に視線を向ける。
「大丈夫大丈夫、腰立たないだけだから」
慌てて駆け寄った俺に、カオルさんは安心させるように笑った。また、怪我をしたのかと思って、焦ってレイさんの顔を覗き込む。
「……何でもない」
レイさんは俺と目を合わせないまま不機嫌そうにそう言うと、俺の肩を掴んで無理やり立ち上がった。すぐにそれに手を貸す。
「お前、ほんっと可愛くないなぁ〜!」
カオルさんはそんなレイさんに呆れたように言いながら、今度は俺の方を見た。
「休んでた分、指名が多くてさ。情けないことに腰抜けちゃってるから、介抱してやって」
カオルさんはわざと嫌味っぽくそう言うと、「おやすみ〜」と手を振って出ていった。
静かになった玄関に、気まずい沈黙が流れる。
カオルさんへ恨めしそうな視線を送っていたレイさんを、一先ずリビングへと連れていきソファに座らせた。シャワーを浴びてきたのか、わずかに髪が濡れている。
「大丈夫……?」
レイさんの隣に座り、顔をのぞき込もうとすると、あからさまに顔を背けられた。
「ッ……」
その態度になぜか胸が痛くなる。
「……どっかのおっさんに抱かれてる俺は嫌なんだろ」
レイさんが不貞腐れたように言ったのを聞いてドキッとした。心臓が痛い。
「それはッ、ちが……」
すぐに否定しようとしたけど、上手く言葉が出てこない。レイさんがずっとこっちを見てくれなくて、それが嫌で泣きそうになる。
「そういう……意味で、言ったわけじゃ……」
自分でもわかるくらい弱々しい声で、ボソボソと喋る。ユズハルって人とのこともあって、余計に弱気になってしまった。
俺の顔を見ないまま、レイさんは不機嫌そうにしている。その横顔を見ているうちに、もっと喋れなくなった。
「……これ、どうした」
不意にレイさんに手首を掴まれる。反射的にビクッと肩を震わせると、ようやくレイさんは俺の方を見てくれた。
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