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第七章「嫉妬の香り」《12》
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「ぁ……」
レイさんの示した俺の手首には、ユズハルって人に掴まれたときにできたアザがあった。
「ぁ、これは……」
「誰にやられた? 客か?」
さっきまでの態度が嘘のように俺の目をのぞき込んでくるレイさんに、思わず圧倒されてしまう。
ゴクッと生唾を飲み込んでから、今日あったことを話した。
「なんで俺とのことバレたんだ?」
キョトンとした顔するレイさんに、イラッとしたものが込み上げる。
「レイさんが先輩の前で、俺にキスしたからですけど?」
自分の頬がヒクヒクと引きつるのがわかる。レイさんは特に悪びれる様子もなく、「ふーん」と俺を見た。
そこにさっきまでの俺を心配する様子はない。
「え、聞いてた? 俺、またレイプされかけたんだけど」
フツフツとムカついてきて、語気を強める。それなのに、レイさんはあまり興味がなさそうにソファにもたれかかる始末だ。
「ユズハルにだろ。アイツはネコ専だし、口だけで、どうせ本気じゃなかったよ」
大きくあくびをしながら話すレイさんに、モヤモヤしたものが溜まっていく。
「……俺は本気で怖かった」
そう言ってギッとレイさんを睨むと、「わかったよ。注意しておく」とだけ言って、それ以上まともに取り合ってくれなかった。
何それ、俺のこと心配じゃないの?
別に心配してほしかったわけじゃないけど、胸の中で黒いものが渦巻いていて気持ち悪かった。
「んー、つまりリトは、レイに嫉妬してほしいってこと?」
受付のバックヤードでパソコンと対峙していたカオルさんは、俺が昨日のことを話し終えると、そう言って顔を上げた。
「そ、そういうわけじゃないですけど……俺ばっかいっぱいいっぱいで不公平っていうか……」
だいぶ慣れてきた清掃の仕事。今は勤務中だけど、とくに片付ける部屋もなくて暇だった。だからつい、モヤモヤした気持ちを吐き出すように、仕事をしているカオルさんに泣きついてしまった。
カオルさんはかけていたパソコン用の眼鏡を外すと、「ふぅん」と俺の方にイスごと向き直った。
「……じゃあ、こうしよう」
そう言ってカオルさんが後ろを振り返る。そこには、それまで我関せずといった態度で話を聞き流していたオーナーがいた。
「アサヒ、リトの首にキスマークつけてやってよ」
「え!?」
驚いたのは俺。
え、き、キスマーク……?
びっくりして固まる俺をよそに、カオルさんはニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「……嫌だね、レイに殺される」
オーナーは咥えていたタバコを灰皿に押し付けると、顔をしかめて深く煙を吐き出した。
「いいじゃん、いいじゃん。俺がつけてもいいけど、やっぱアルファらしいどぎついのの方が効果あると思うんだよねぇ」
カオルさんがイスから立ち上がり、壁際に追い込むようにオーナーに詰め寄る。すぐにオーナーは逃げようと動き出したけど、カオルさんの方が上手であっという間に捕まってしまった。
「それとも……俺がお前以外に痕つけていいんだ?」
「……それは……いやだ」
二人で顔を近づけて話しているせいで、内容はよく聞こえない。でも、見るからに不機嫌そうな顔をしているオーナーに、わけもわからず不安になった。
「頼むよ。……ね?」
カオルさんがオーナーの顔の横に手をついて、完全に逃げ道を絶つ。オーナーは唇を噛み締めると、困ったように眉間にシワを寄せた。
オーナーのそんな顔、初めて見た……。
思わず見つめていると、オーナーは俺の視線に気づいたのか、バツの悪そうな顔をしてうつむいてしまった。
「何かあったら庇えよ……」
オーナーがボソッと小さな声で言ったのが、辛うじて聞き取れた。
カオルさんはオーナーの頬に「ありがと」と軽くキスをすると、今度は俺を振り返ってニッコリと笑みを浮かべる。
「じゃあ、リト。こっちおいで……?」
背中を冷や汗が伝っていくのがわかる。嫌な予感でいっぱいだ。
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