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第七章「嫉妬の香り」《13》
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朝の五時半。
いつも通り仕事が終わって部屋に帰ると、今日はレイさんの方が先に帰って来ていた。
玄関に置かれたレイさんのクツに、グッと緊張感が強まる。
もう寝てるかな……。
恐る恐るリビングのドアを開けると、意外にもレイさんはソファに座ってテレビを見ていた。
一拍開けて、レイさんがこちらを振り返る。
「……おかえり」
その声だけで、疲れているのがわかった。
「ただいま……」
小さく返事を返し視線を泳がせる。何となく気まずい空気だ。
「……先に寝てて良かったのに」
眠いはずなのに、わざわざ俺を待っていてくれたのかと思うと胸が痛かった。
でも、今、俺はレイさんに合わせる顔がない。
平然を装ってリビングを通り過ぎ、レイさんに何か言われる前にお風呂場に逃げ込んだ。
「どうしよう……」
シャワーを浴びながら、鏡に写った自分の姿に情けなく眉尻を下げる。
鎖骨の下の、ちょうど制服では隠れる位置。オーナーにつけてもらったキスマークが、はっきりと存在を主張していて恐る恐る触ってみる。
擦っても全く消えそうにないその痕に、レイさんがどんな反応をするのか不安だ。
怒るかな……。それとも、あんまり気にしないかな……。
昨日、ユズハルって人のことを話したときの反応を思い出す。心配してくれたのは最初だけで、あとはどうでも良さそうだった。
オーナーにこんなことまでしてもらって、何もありませんでしたじゃ示しがつかない。ちょっとくらい妬いてくれたら嬉しい……かも。というか、これで何も言われなかったら、たぶん俺、泣く。
「よし……」
小さく気合いを入れ、お風呂から上がった。
部屋着に着替え、痕が見えないように肩にタオルをかけてリビングに戻る。レイさんは相変わらずソファに座って、テレビをボーッと眺めていた。
リビングに早朝のテレビ番組の音だけが響いている。
ソファの後ろをそっと通り過ぎて、キッチンの冷蔵庫を開けた。中からペットボトルを取り出して、気持ちを落ち着かせるために中身を一気に傾ける。
やばい……緊張する。
さっき気合いを入れたばかりだと言うのに、情けないことに既に決意が揺らぎ始めている。
どうしたものかとキッチンに立ち尽くしていると、おもむろにレイさんがテレビを消した。静まり返るリビングで、レイさんがソファから立ち上がる音がやけに大きく聞こえる。
同時に自分の心臓もドクドクとうるさくなる。
「寝るぞ」
「う、うん」
レイさんがあまりにもいつもと同じ調子で言うから、反射的に返事をした。
ここ最近、気まずい感じが続いていたから、てっきり今日も何か言われるのかと身構えていた。
それこそ、いい加減仕事を辞めろ……とか。
レイさんは俺の方を見ないまま、寝室へと歩いて行く。持っていたペットボトルをキッチンに置いて、俺もそのあとをついて行った。
────
薄暗い寝室に入ると、一気に緊張感が増した。レイさんがベットに腰かけたのを見て、静かに唇を噛み締める。
大丈夫、大丈夫……。
心の中で何度も繰り返して、肩にかけていたタオルを外す。
出来るだけ自然な動きを意識したけど、なかなか布団に入らない俺を不審に思ったのか、レイさんがこっちを見た。
バチッと視線が合って、心臓がドキッと脈打つ。
すると、いきなりレイさんが立ち上がって、俺の方に近づいて来た。
「これは……?」
あまりに険しい顔で、聞いたことがないほど低い声だった。
「ッ……」
鎖骨の下の辺りを触られ、わかりやすく肩が震える。
一瞬でバレた……。
思わず後ろに下がろうとするも、すぐに後ろの扉にぶつかった。
「同意か?」
レイさんが射るような目で俺を見る。その顔がすごく怖くて、無意識にコクコクとうなずいていた。
瞬間、レイさんの顔が歪む。レイさんは何か言おうとして口を開けたけど、何も言わないまま押し黙ってしまった。
その顔が“傷ついた”っていう顔で、俺は一気に自分の行いを後悔した。
俺、レイさんにこんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
「レイさ、ッ……!」
謝ろうと口を開くと同時に、レイさんが俺の腕を強く掴む。びっくりして身体を強ばらせると、レイさんは乱暴に俺を引っ張っていき、突き飛ばすようにベットに押し倒した。
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