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第七章「嫉妬の香り」《23》
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「レイさん!?」
「カオルッ!!」
腰の痛みも忘れ、急いでベットを這ってレイさんに近付く。カオルさんに駆け寄ったオーナーが、カオルさんの背中を支え起こした。
「痛ってぇ……」
口の端が切れて血が出ているのが見える。カオルさんは顔をしかめて床に座り、口を押さえた。
「もうちょっと手加減してほしかったなぁ……」
痛そうに顔を歪めるカオルさんを、レイさんは悪びれる様子もなく無表情で見下ろしていた。
「レイさん、手……」
殴ったレイさんの手からも血が出ていた。慌ててその手を掴むも、レイさんは気にした様子もなく、ヒラヒラと俺の手を振り払う。
「カ、カオルッ……」
「大丈夫だよアサヒ」
カオルさんが狼狽えるオーナーをなだめる声がして、そちらへ視線を移す。オーナーはカオルさんのそばにしゃがんで、酷く動揺している様子だった。カオルさんは、そんなオーナーの頭を慣れた手つきで撫でている。
静かにレイさんを見上げたカオルさんは、小さく笑って眉尻を下げた。
「悪かったよ」
血の出ている唇を痛そうにして、そう謝る。
「だ、大丈夫ですか……?」
ベットの上からカオルさんをのぞき込んだ。カオルさんは俺を安心させるように「大丈夫」と笑ってくれる。
「二度とやるな」
それまで黙っていたレイさんが、カオルさんに向かって手を差し出した。カオルさんはその手を取って立ち上がりながら、「……はいよ」と言ってわずかに目を伏せた。
その様子を見ていてハッとする。
「俺……? 俺にキスマークつけたから……?」
レイさんがカオルさんを殴った理由が思い当たって、カオルさんを見る。無意識に声が震えた。
「あー……」
カオルさんは気まずそうに俺から目をそらす。それだけで十分だった。
「なんで……!? 何でカオルさんを殴んの!? 殴るなら俺でしょ!?」
こちらを冷たく見下ろしているレイさんに詰め寄る。わけがわからなくて、泣きそうだった。
「ねぇ! レイさん!」
ベットに膝立ちになり、レイさんの服を掴んで揺さぶる。
「レイッ!」
瞬間、レイさんが俺の手を掴んで、反対の手でさっきと同じように拳を振り上げた。焦ったようなカオルさんの声が聞こえて、反射的にギュッと目を閉じる。
──殴られるッ……!
身体を強ばらせ、身構えた。
一拍置いてペチッと音がして、頬にレイさんの拳が触れた。痛くもなんともないその感覚に、恐る恐る目を開けてみる。
「ッ……」
見上げた先で、悲しそうな顔をしたレイさんと目が合った。
「……お前も、二度とやるなよ」
そう言って俺の手を離したレイさんの顔は、ひどく傷ついた顔だった。
「ごめ、なさいッ……!」
一気に涙が溢れ出す。カオルさんにもオーナーにも申し訳なくて、何よりレイさんにこんな顔をさせてしまったことが嫌だった。
レイさんはそんな俺を慰めるように抱き締めてくれる。でも、それすら申し訳なくて余計に涙が出た。
「ッぅ…、ひっく…ッ……」
嗚咽を漏らしながら、レイさんの服にしがみついて子どもみたいに泣いた。静かな寝室に俺の泣き声だけが響いて、心の中は罪悪感でいっぱいだった。
少しして、ようやく落ち着いてきて、ぐしゃぐしゃの顔のままベッドの上でカオルさんとオーナーに向かって頭を下げた。
「ごめんなさいッ……俺のせいでッ……!」
謝りながらまた涙が込み上げてきて、ずるずると鼻をすする。
カオルさんたちに殴られても文句は言えない。
しばらくして、何も言わない二人に不安になって、恐る恐る顔をあげた。見上げた先で、カオルさんとオーナーは困った顔で俺を見ていた。
「いや、こっちもごめん。こうなるって予想してたのに……。あー……なんか土下座みたいになってるから、ッふ……起きたら?」
カオルさんはそう言って、堪えきれないように笑い出す。
「……どっちかって言うと、手を出したレイが一番悪いけどな」
疲れたようなオーナーの言葉に、俺たちの視線が一斉にレイさんへ向いた。
急に俺たちに見られたレイさんは、眉をひそめながら小さく肩をすくめる。
「……俺だって嫉妬くらいする」
不貞腐れたような顔でレイさんが言った言葉に、ドキッとして顔が熱くなった。
カオルさんとオーナーは驚いたように一瞬フリーズして、すぐにニヤニヤと笑い始める。
「お前もちょっとは成長したなあー!!」
そう言ってレイさんに飛びかかったカオルさんは、嫌がるレイさんをものともせずに、わしゃわしゃと頭を撫で回した。
服の袖で濡れた顔をゴシゴシと拭きながら、楽しそうなその様子を見て、自然と笑いが込み上げた。
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