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第八章「深まる香り」《2》
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「クリスマスって、やっぱりお店混むんですか?」
これ以上情事の痕に触れられたくなくて取り繕うように言うと、イツキさんは床に座ったままソファにダラッともたれかかった。
「んー……クリスマスは、イブも当日も混むけど、大体そのちょっと前くらいから混み始めるかなぁ。ほら、冬のボーナスがみんな入るからさ」
イツキさんの言葉に「あー……」と納得する。元々忙しそうなレイさんだけど、最近は特に疲れているように見えた。
俺がここに来てから、もうすぐ三週間が経つ。まだそんなもんしか経っていないのかとびっくりしつつも、数日後に控えたクリスマスをどう過ごすべきか、ここのところ考えている。
「俺もそうだけど、この時期はみんな忙しいから、クリスマスが終わってからケーキ食べたりするかなぁ」
ソファのクッションを膝の上でいじりながら、イツキさんはのんびりとした口調で話す。「人にもよるけど、あんまりクリスマスらしいことはしないかも」と続けるのに、静かに相槌を打った。
動けない俺のために今日まで清掃の仕事を休みにしてくれたオーナーに感謝しつつ、誰もいない部屋で一人ぼーっと過ごしていた。そんな俺のために、今日はイツキさんが出勤前に遊びに来てくれた。
ソファにもたれかかるイツキさんの顔は、やっぱりどこか疲れてるように見える。イツキさんだって、売れっ子ボーイだ。本当は俺に構ってる暇なんてないはず。
「レイと過ごしたかった?」
不意の言葉に、キョトンと首を傾げる。
「え、いや、そんなことないですけど……クリスマスっていつも一人だったから、どうやって過ごすのが正解なのかなって思って……」
自分の手の中で震える携帯を見下ろしながら、返ってきた返事を確認しようと画面を開く。
「レイに頼んでみれば?」
「え」
イツキさんの言葉に、驚いて顔をあげた。
頼む? 何を……?
俺が困惑したのがわかったのか、イツキさんはそのまま続ける。
「リトくんの頼みなら聞くと思うんだけど。クリスマス当日は……指名の予約すごい入ってるし、さすがに無理かもしれないけど、二人で出かけたいって言ったら、たぶんどっか連れてってくれるんじゃない?」
イツキさんがニヤニヤして言うのを聞きながら、何と言っていいかわからなくて視線を携帯に落とした。
『遅くなるから、先に食べていい。何か欲しいものあるか?』
レイさんからの返事を見て、唇をグッと引き結ぶ。
「……いや、いいですよ。悪いし……」
『待ってる! 特にない〜だいじょぶ!( ´∀`)b』
二人に返事をしながら、胸の中がモヤッとした。
こんなに幸せなのに、俺はこれ以上何を求めるって言うんだろう。そう思うのに、レイさんのことになるとどこまでも貪欲な自分がいて、自己嫌悪に陥ってしまうことが最近は多かった。
「そー? まぁ、言うだけ言ってみなよ。ダメだったらダメだったで、俺とケーキ食べよ!」
イツキさんの言葉に「んー……」と唸る。俺のせいでカオルさんが殴られてしまったこともあって、出来ればもう誰にも迷惑はかけたくなかった。
食べ終わった食器をレイさんがキッチンで洗ってくれている。その姿をソファの背もたれから顔を覗かせて静かに見つめていた。
ガチャガチャと洗ったお皿を乾燥棚に並べているだけなのに、わずかに下を向いたレイさんの姿はどこか色っぽい。
「……レイさん」
「ん?」
水の音で聞こえないかなと思いつつ、小さな声で呟くように声をかけた。意外にもすぐに返事が返ってきて、心臓がドキッと脈打つ。
「クリスマス忙しい……?」
躊躇いがちに声をかける。洗い物が終わったらしく、レイさんはキュッと水道を止めると、手を拭きながら顔を上げた。
「……なんで?」
少し間をあけて返ってきた言葉は、何だか戸惑っている感じだ。
「いや……その……ふ、二人でどっか行かないかな……って思って……」
ボソボソとレイさんから目を逸らして言う。
「………」
チラッと見たレイさんの顔は渋い顔で、言わなきゃ良かったとすぐに後悔した。
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