アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第八章「深まる香り」《3》
-
「いや、ごめん。やっぱりなんでもない。レイさんが忙しいの知ってるから、忘れて!」
いそいそと身体を反転させ、誤魔化すようにテレビをつける。
「……どこに行きたいんだ?」
「え」
近づいてきたレイさんが、すぐ後ろでソファの背もたれに手を付いてこちらをのぞき込んでいた。
「連れて行けると約束はできないが、一応聞いとく……」
困ったように言葉を紡ぐレイさんの優しさに、ギュッと胸が締め付けられる。
あ、どこに行きたいのかまで考えてなかった……。
「え……うーん、イルミネーション観に行く……とか?」
テキトーに思いつくことを言ってみる。高校を辞めて以来、働いてばかりだったから、クリスマスに好きな人と行く場所なんて全然思いつかなかった。
「いや、でも、本当に大丈夫! ごめん、ちょっと言ってみただけ! 気にしないで!」
慌てて取り繕うように笑ってみせる。レイさんは少しだけ眉間にシワを寄せたけど、それ以上何も言ってこなかった。
テレビで流れるCMを観ながら、「あ、このゲーム新しいの出たんだ〜懐かし〜」とわざとらしく話を変えた。
────
十二月二十四日、クリスマスイブ。
今日も元気に清掃仕事に出勤中。
「な、なにこれ……」
制服のベストを着て受付カウンターにやって来ると、玄関ホールに詰まれた大量のプレゼントが目に入った。
広々としたホールの壁際に、綺麗にラッピングされたカラフルな箱や、俺でも知ってる高級ブランドの紙袋などが山積みになっている。
「すご……」
ボソッと呟きながらそれの前を通り過ぎ、清掃スタッフ用の控え室の扉を開けた。
「おはよ〜リトぽん!」
「おはようございます!」
先に来ていた先輩と挨拶を交わすと、先輩はニッコリと俺の目を見て笑った。
ほんの数日前、先輩は突然俺とレイさんの部屋にやって来た。なぜか、あのユズハルっていう人と一緒に。
リビングに入るなり、いきなり二人が頭を下げてきてすごくびっくりした。
『ごめんなッ、俺が余計なことコイツに言ったから……! ほんまにすまん!』
『ご、ごめんなさい……』
先輩に頭を押さえつけられているユズハルさんを、レイさんの後ろからそっとのぞき見た。先輩とユズハルさんが一緒にいる意味がわからないし、なんで二人に頭を下げられてるのかわからなくて凄く戸惑った。
突然のことに動揺しながらもお茶を淹れて、レイさんも一緒に四人でテーブルを囲んだ。
二人はたくさんの高そうなお菓子を持ってきてくれていて、俺に事の顛末を全部説明してくれた。
ユズハルさんのことは嫌いだけど、話を聞いてるうちに悪い人ではないのかなぁ……ってちょっとだけ思った。でも、嫌いは嫌いだし、されたことを思い出すとやっぱり怖くて、レイさんの後ろに隠れたまま、ろくに口は聞かなかった。
だって本当に怖い思いさせられたし。あんなことをされたあとで、はいそうですかってすぐに仲良くできるほど、俺は大人じゃない。
あ、でも、貰ったザラメのついたカステラは美味しかった。また食べたいなぁ……。
ぼけーっとそんなことを思い出していると、先輩はなぜか上機嫌で俺に喋りかけてくる。どうやら話題は、あのプレゼントの山のことらしい。
「ぜ〜んぶレイさん宛てなんよ」
「ええ……!」
先輩の言葉に驚いて目を見開く。
「あれ……全部ですか?」
信じられなくて思わず聞き返す。
え、お店の倉庫くらいの量あったけど……。
「そうやで。羨ましい通り越して、あの量は怖いよなぁ」と苦笑いを浮かべる先輩に、俺もぶんぶんと首を縦に振って同意した。
「勝手に持って帰って良いって言っとったから、遠慮なく色々貰ったわ」
そう言ってクルクルとブランド物の時計を指で回す先輩に、「あはは……」と引きつった笑みを浮かべた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
100 / 119