アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
. 始動
-
案内されたのは、アーケード内にある薄暗いビル。
毎日ここを通っているが、こんなに近くにヨリヒトがいるなんて全く知らなかった。
カチ、カチ、と音を鳴らして不安定な明かりを灯す蛍光灯が、より一層ビルの不気味さを醸し出す。
案内されるまま階段を上がると、重厚な鉄の扉が現れた。
ボロいビルに似つかわしくない立派な扉を見つめていると、ヨリヒトが壁に付いているタッチパネルで暗証番号を入力した。
するとバチンとビル内に響き渡る大きな音を立てて、鍵が外れる。
「ささ、入って。」
映画でしか見たことのないセキュリティに胸が高鳴らせながらヨリヒトの手元を見ていたが、数秒後にそれは消え去る事となる。
「なんだ、これ……。」
目の前に広がっていたのは、ゴミの山。
まだ中身が入ったカップ麺がそこら中に転がり、紙や服、ペットボトル、電子機器等が床一面に敷き詰められていた。
「なんだこの部屋……散らかり放題……
うわ、臭っ。匂いやばいって。」
足の踏み場が無いのでその場で立ちすくみ鼻を抑える。
口から吸ってる空気からも刺激臭を感じ、胃の中のものが逆流する感覚を必死に堪えた。
どんな生活したらこんな匂いになるんだよ。
これならまだ夏場の公衆便所の方がマシだ!
「ヨリヒト、俺、無理……。帰るわ。」
くるりと踵を返すと、力強く肩を掴まれる。
「え、待ってよ!ここはただのリビング。こっちのドアの向こうが研究室だから!見てってよう。」
ここがリビング?あほか。どう見ても廃棄場だろ。
涙を浮かべながら、足の親指だけでヨリヒトのいる扉の方へ向かう。途中、何かブニュっとした生暖かい物体を踏んだときは気を失うかと思った。
「さあさあ、こっちこっち。研究室を見せてあげるなんてよっぽどなんだからね。」
何の変哲もない普通の扉を開けた。
こんな生活の場どころか廃棄場を見せられた俺は、完全に油断していたんだと思う。
俺の中で研究室というものは、机があって、沢山の分厚い本や資料が壁一面に並べられていて、そこかしこに紙やペンが散乱しているのを想像していたのだ。
しかし、目の前に広がっているのは、闇。
外部からの光を一切遮断しているこの部屋には、その一言に尽きた。
「何だこれ……。」
「待ってね。今ライト付けるから。」
ぱち、と音が鳴ると、筒状の水槽が現れ中央に道を作る様に並んでいた。
「なんだぁ、ここ……。」
俺の身長よりも数十センチ程高い水槽が、部屋の奥までずっと続いていた。水槽の上部と下部から照らされる緑色のLEDで、薄く室内を照らす。
耳を澄ますと、水の跳ねる音や水流が聞こえる。
先程の部屋からは想像もつかない空間を目の当たりにして、呆気にとられていた。
「じゃじゃーん!これが俺の研究室。すごいでしょ?」
「はぁ……、研究室……。」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事。
あまりの壮大さに言葉が出ない。
ゆっくりと研究室の中に進んで水槽を一つ一つ見ていく。
ネズミやヘビ、トカゲといった小さな動物達がごちゃ混ぜにホルマリン漬けにされているもの、俺の身長位ありそうなロボット、触手のような、イソギンチャクのような気味の悪いものは一つずつ水槽に入れられていた。
「すごいな…。これ全部、お前が作ったのか?」
「そうだよ。10年かけて作ったんだ。今じゃ結構お仕事もらえるようになったんだよ〜。」
「へえ、悪趣味な奴もいるんだな。」
「奥も見てってよ。アキラ絶対好きだよ。」
さあさあ、と腕を引っ張られながら奥へと進む。
その途中でふと、一つの水槽と目が合った。
コンコン、と内側からノックをしてきた彼は、まるで生身の人間の様な姿をしている。
ヨリヒト。と名前を呼ぶが全く聞いちゃいない。
いつもの俺だったらこんな事をしないと思う。
でも、この時は何故か好奇心が抑えられなかった。
ヨリヒトを追いかけていた足を止めその水槽の前に戻ると、彼は人差し指で水槽の下にあるボタンを指差していた。
いくつか並んでいるボタンを順番に指を差すと二つ目の時に頷く。
俺がボタンを押すと、彼はどこか切なげな顔で口を開いた。
『ごめんね』
そう言っている気がしたが、水槽から声は届かず特に気に留めなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 52