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. 新たな生活
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「それじゃ、気をつけて帰るんだよ。」
アーケードの出口まで送ってくれたヨリヒトに手を振ると、「アキラじゃなくてキョウヘイに手ぇ振ってんの。」と悪態をついてくる。
「何かされたらすぐに俺のところ戻って来るんだよ。分かった?」
まるで子どもに言い聞かせる様に彼の両肩を掴んで話しかける。
「んな事しねーよ。」
「定期的に顔見せに来てね。」
「親戚のおばちゃんかよ。」
「うるさいな!手塩にかけて育てたキョウヘイを手放す俺の気持ちがアキラに分かるのか!」
急に親心をむき出しにしてくるヨリヒトに、「わ、分かったから…。」と若干引きながら後ずさると、さっきまでの俺の立ち位置が邪魔だと言わんばかりに彼に抱きついた。
おいおい夕方再開した時のヨリヒトはどこ行ったんだよ。
2人の世界を呆れた目で見ていると、「どう?羨ましい?」と訊ねてくる。
「ついていけねーわ。」
「ふふ、アキラも気をつけてね。またキョウヘイについて聞きにおいで。」
不本意な展開に不安はあるものの、少し期待している自分がいる。大学卒業してから今まで、ずっと一人暮らしをしていた。しかしこれからは帰る場所に彼がいる。
ヨリヒトは人間だと言っていたが所詮は研究生物だろ。
来月から残業増やすか…。と項垂れていると彼が不思議そうに俺を見つめた。
「ああ、目の前でごめんな。お前も大変だったな、あんな奴に飼われてさ。」
ぱちぱち、と二つ瞬きをすると横に首を振った。
「まあでも不自由はさせないようにするから。何かあったら言ってくれよ。」
そう言うと、彼の口元が僅かに上がった気がした。
それにしても、一切の不自然さを見せない滑らかな動きで歩く彼が不思議でたまらなかった。
元人間などと言っていたからてっきりロボットなのだと思っていたが、全くそんな事はないようだ。
感心の眼差しで彼を見ているとあっという間に自宅に到着する。
「あーこっちこっち。そこ、段差あるからな。」
こくり、と頷いて段差を上がった。
「そういや名前聞いてなかったな。」
彼は、ふと何かを考える様に一点を見つめてから、ゆっくり口を開いた。
「………っ。」
彼は口を開けたまま眉をひそめる。
ひゅーひゅーと空気が通る音しか発しない喉に違和感を感じたのか、両手で自身の首を触り何かを確かめているようだった。
喋り方を忘れたのだろうか。
こうやって喋んだよ。と、大きく口を開けて「あー。」と発声すると俺の真似をして同じように声を出す。
「そうそう、上手。」
「あーー……、俺の名前、キョウヘイ。」
声変わりを終えた青年の声。
初めて聴いたはずの彼の声は、何故だか懐かしく感じた。
「キョウヘイか、俺はアキラ。これからよろしくな。」
俺より僅かに高い彼の肩に手を置くと、その手をじっと見つめていた。
「急に悪かったな。挨拶だよ。」
「あい、さつ……。」
不思議そうに自身の肩を見つめる彼から手を離すと、再び眉をひそめて首を抑える。
「どうした、さっきから首触って。」
「なんか、ここ、カピカピする……。」
「ああ、喉乾いてるんだよ。」
水の入ったコップを手渡すと彼は一気に飲み干した。
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