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「キョウ、ヘイ……?」
目の前にいたはずの彼が一瞬にして消えた。
それが何を意味しているのか、考えずとも理解する。
吸い込まれるように窓へと向かい桟に手をかけると、見るな。と痛みが走るほど頭が警鐘を鳴らす。
見るな、見るな見るな見るな見るな。
しかし、警鐘は雑音へと変わり頭痛すらも忘れるほど全ての感覚が鈍く、厚い膜で覆われている感覚に陥る。
もはや自身の発した危険信号すらも感じ取れなくなっていた。
何もかも無視した先に見えたのは、変わり果てたキョウヘイの姿。
頭部は潰れたトマトの様に砕け、首は肩に付く程折れ曲がり、関節は本来曲がらない方向を向いている。
目を背けたくなる光景の筈なのに、身体が、視線が、動くことを許さない。もはや目の焦点など合っておらず、写るのは何重ものフィルターにかかったぼやけた視界。
なんで、どうして。
言葉を発することも出来ず、ただキョウヘイの周りに集まる人をどこか遠い目で見ることしかできなかった。
「何があったの?」と周りに問いかける声、「落ちたぞ」と大声を上げる運動部の生徒、「こっちに来るな。」と怒鳴り声を響かせる先生達、現場を目撃したであろう女子生徒の泣き叫ぶ悲鳴。
阿鼻叫喚の中、腰を抜かした俺はその場にしゃがみ込み持っていた携帯を握りしめた。
写真なんて、撮らなければ。
画面に写っているのはオレンジ色に輝く校庭と色とりどりのビルの灯り。
そこに、彼の姿は無かった。
麻痺していた感覚が一気に覚醒する。
愛した友人はいなくなってしまった。その事実を飲み込んだ身体は、徐々に俺の心を引き裂いた。
そもそも俺がキョウヘイの異変に気付いていれば。
俺がもっと気にかけてやれていたら。
やり切れない感情が行き先を求めて、自身の頭を両手で掻き乱す。頭皮から血が出ようが、爪が折れようが、髪が千切れようが痛みなど感じない。
引き裂かれる心の苦痛を紛らわす方法など知るはずもない。ただもがく事しか出来ない自分が、惨めで、弱くて、情けなかった。
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