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序章
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小波 瑠依(さざなみ るい)は、昔から臆病で小心者な男だった。筋肉が付きにくい小柄な体質で、その上自己主張が苦手な彼は、いつも一人で、人の目のない所で、本を読んで過ごしていた。
人とはどれほど幼い齢であっても、何かしらにつけ力で優劣を付けたがる生き物で、瑠依はそれが嫌いだった。ガキ大将と子分といった小学生ならではの可愛らしいものから、いじめやカースト制度など、決して軽視してはならないものまで、ありとあらゆる理不尽な上下関係が、瑠依にはあまりにも窮屈で、おぞましいものだった。だからこそ、人のいない図書館で、一人文字の波に埋もれて酔っている時間が、何よりもの至福なのであった。
そしてもう一つ、彼には好きなものがあって、それが漫画だった。図書館に置いてある、教育系の漫画をきっかけに、これも読むようになった。読むのは勿論、描くのも好きで、昔から、自由帳を買ってきては、そこに自分の世界を描き、様々な物語を描いてきた。画力もなかなかなもので、学校の図工の絵では金賞をとったこともある程だ。
『それ』に出会ったのは、中学生の頃だった。
瑠依が中学2年生の頃、家のパソコンでネットサーフィンをしている際、とあるサイトを見つけた。それは、自分の描いた絵を自由に投稿する事ができるサイトで、他人の絵を自由に見、自由にコメントができるサイトだった。そのサイトは絵だけでなく、漫画や小説も投稿されており、瑠依はたちまち虜になった。どうしてもサイトに登録したくて両親に頼み込んだが、トラブルがあるといけないと反対された。登録には、パソコンのパスワードが必要で、それが分からないので瑠依一人ではどうしようもない。
サイトでは登録はしなくても絵や小説の鑑賞は自由にできる。作品に対するコメントやお気に入り登録などは、登録しないとできないのだ。
結局、スマホを買ってもらえる高校生になるまで、未登録でパソコンからそのサイトを楽しんだ。
そして、高校生になった日、瑠依は憧れのスマートフォンを手に入れた。
数多く見つけた、サイト内のお気に入りの絵師達。今まではただ見ることしかできなかった絵の一つ一つに、暖かなコメントを残したい。瑠依も絵を描く側の人間だ。自分の作品に感想が来た時のあの例えようのない嬉しさや興奮は、とてもよく分かっていたため尚更嬉しかった。
早速スマホからサイトを開き、登録画面を起こす。そして、好きな絵に片っ端からコメントを残してゆく。たったそれだけの行動が、嬉しくて、嬉しくて、仕方がない。
数十分は経過していただろうか、そろそろブルーライトで目が疲れ始めたその頃、数ある絵の中に、一つ気になるものがあった。
『注:BL性行為表現あり 暴力表現あり』
タイトルの横に、小さくそう記述された、ページ数18枚の電子漫画。生唾を飲む。瑠依は高校生。もう、そういうことはある程度知っている年頃だ。暴力表現というのは少し気になったが、それ以前に、サムネイルのイラストが、あまりにも神秘的で、思わず心を奪われた。
ただのエロ漫画じゃない。BLだ。つまり、男同士。男二人が、体を重ねる…一応、知らないわけじゃない。でも、気になる。
読むしかない、この漫画を。
高鳴る心臓の鼓動を確かに感じながら、漫画の文字一つ一つ、舐めるように目を通す。
ー幼馴染の大学生男子二人は、家も近く大学も一緒に通う仲睦まじい関係であった。が、片方に彼女が出来てしまい、もう片方の男性は、女性に激しい嫉妬を抱く。ぐちゃぐちゃした感情が向かった先の答えは、『幼馴染を監禁しセックスの虜にしてしまえば、いつまでも彼は自分の傍にいてくれる』というものだった……
つまり、これは早い話性暴力物の話で、見る人が見れば公的良俗に反すると言われなくもない、そんな内容である。嫉妬心にまみれた幼馴染にめちゃくちゃに犯され、喘ぎ、望まぬ絶頂を迎え、したくもないはずのセックスに次第に虜になるその姿を見ていると、瑠依は今まで感じたことのない興奮を覚えた。今までも、思春期ならではの衝動にかられ、エロ本やエロサイトを見たことは何度かあるが、あれとはまるで比にならない、足先から頭のてっぺんまで、体の芯に大きな電流が突き抜けたような……新しい扉が開く音がした、と言った方が正しいかもしれない。
所謂SM、そしてBLにハマったのは、その時からであった。
無理やり犯される、というのが、たまらなく興奮する。泣き、喚き、それでも快楽に打ち勝てず喘ぎ…そして、絶頂を迎える。その流れを見るのが、果てしなく気持ちいい。
世間一般におけるSMとは、後ろ手を縛られて鞭打ちされたり、股を気絶するまで蹴られたり、そんなものをいうことが多いが、あれはあくまで一部のサドやマゾの考えである。一口にSMといっても程度は様々で、気絶するまで殴られるのが好きなマゾもいるし、逆に、暴力ではなく、無理やり犯されるのが好きなのであって、殴られたりするのは好ましくないと考えるSM好きもいる。
ここで瑠依におけるSMとは、逆らうことの出来ない状況で無理やり犯される、というのが好きなので、暴力を含む表現は、あくまで畑違いである。
その日から、瑠依がそのサイトを使う目的は、少しずつ変わり始めた。
SM関係のイラストや漫画を片っ端から検索して読み尽くす。ただのBLでは物足りない。無理やり感のある作品でなければ足りない。幅の広いジャンル故、好みの作品を探すのは一苦労だが、見つけた時の喜びは果てしないものだった。
そして、自分でも、BL漫画を描き始めた。
出てくるのは男子二人組で、様々な形で激しく体を重ねさせる。ある時は紐で縛り、あるときは玩具を固定し手足に枷をはめ………
夢中になって描きながら、心の底では一種の不安を覚えていた。自分は、少しおかしいのではないか、と。
だが、そんな不安もすぐかき消された。できた作品をそのサイトに投稿したところ、たちまち大量の評価やコメントがついたのである。
『久しぶりにぞくぞくする作品に出会えました!』
『素晴らしい画力ですね!読んでいて楽しいです!』
『次回作楽しみにしてます』
ああ、自分だけじゃないんだ。みんな、こういう作品を待っているんだ。
そう思うと、瑠依はますます嬉しくなって、筆がスラスラ進むのであった。
そして、高校二年生になった。
性格も趣味も相変わらず、家では暇さえあれば漫画を描き、投稿する。
友達は、まだ一人もいない。
一年生の頃から瑠依はずっと一人だった。時々仲良くなる男子はいるが、なぜか続かない。
スマホの画面の向こうには、自分の作品を待ってくれている人がいる。投稿すればするほどコメントで溢れかえる。最早中毒になっていた。
(…次の漫画は…また男子高校生二人で、そうだなぁ、体育館倉庫に監禁して、そこからって感じがいいなぁ。玩具は大量のローターにして、体中に貼り付けて跳び箱に括りつけて…あ、やっぱバイブも欲しいかな)
教師が教科書を読み上げている中、瑠依は一人、妖艶なエロスの世界に頭を浸らせていた。
チャイムの音が、鳴り響く。
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