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なんだかよく分からないまま、
出されたトーストを齧って、カフェオレで流し込んだ。
腑に落ちない顔をしながらトーストを頬張る俺を、
浅科さんはコーヒーを片手に、たまにくすくすと笑いながら見ていた。
いろいろと詰め込んで来たカバンをゴソゴソと漁っても、ろくな着替えは入ってない。
まさか出かけるなんて考えてなくて、Tシャツにダメージジーンズくらいしか持って来なかった。
「急に言うからろくな服無ぇんだけど。」
着替えて寝室から出て来た浅科さんをちらりと見ると、
麻のシャツにチノパンというシンプルな格好でも、ちゃんと絵になっていて、ちょっとムッとした。
「お前らしくていいと思うけど。」
「……嫌味に聞こえる。」
着替えた俺を見て浅科さんが言った言葉を、素直に受け止められるほど大人でもない俺は、
子どもっぽい言葉しか口から出て来ない。
「俺なんか連れて歩いて恥ずかしくないの?」
〝そんな事ない〟
と言わせるための、拙い誘導尋問みたいな戯言。
「ないよ。なんで?」
それに、この人は、俺が望む言葉を返して来る。
見透かされてるのか、この人の素なのか分からないけど、
たまにそれが真っ向からぶっ刺さって、自分で仕向けたのに大ダメージを食らう。
「あっそ。」
にやけてしまう口元を噛んで、その視線から逃れる様に背中を向けた。
いつの間にか、起き抜けの憂鬱感を忘れていた。
でもきっと、
ほんの些細なきっかけで、またあの時の、ホコリ臭い陰湿な気持ちに逆戻りする
いつもそうだ
ゆらゆらと、行ったり来たりしてばかりだ。
まさに真夏日という炎天下の中、二人並んで駅までの道を歩いた。
数分の道のりが、果てしなく感じる。
ふと、差し掛かった交差点で前を見ると、
熱されたアスファルトが、ゆらゆらと揺らめいていた。
向こう側の境界線が、不確かに揺らめいている。
曖昧で、不確かで、ぼやけた輪郭。
「……あれ、なんだっけ。」
「え?何が?」
「あの、ゆらゆらしたやつ。…シンキロウじゃなくて…」
いつの間にか口に出ていた問いかけに、
隣に立った浅科さんは、
そんなに考える事もなく答えを口にした。
「あぁ、陽炎か?…炎天下だからなぁ、今日。」
そうだ、
カゲロウ。
「陽炎がどうしたって?」
「別に、なんでもない。」
俺は、
あの、ゆらゆらと不確かに揺らめいて、
輪郭がぼやけた景色が、
ひどく自分に似ている気がして、
信号が変わった事にも気付かずに眺めていた。
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