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〔 彼方 side 〕
家に帰っても鍵がないことに気付いて 、 その辺をウロウロしていようと商店街に向かった 。
お年寄りが好きそうな小さな商店街だけど 、 子供の頃は遊び場所って言ったら必ずここで 、 カードゲームを持ち込んでは毎日のように入り浸った 。
とくに駄菓子屋のおばちゃんとは仲が良くて 、 お小遣いを片手にガムを買ったりして 、 寂しさを埋めていた 。
祖母というものに会ったことがないから分からないけど 、 俺にばあちゃんがいたらこんな感じかなって 、 たまに想像していた気もする 。
一人で歩いていると 、 色々な思い出が溢れてくる 。
家で食べるご飯が嫌いで 、 バイトが出来るようになってからは外食が増えたこと 。 両親に褒められたい一心で勉強して 、 何度も満点を取ったこと 。 立派な大人になりたくて 、 大学に行こうと決心したこと 。
どの記憶にも一人だった 。
でも 、 いつか両親が褒めてくれるだろうと思ってたから苦痛じゃなかった 。
恋人を作って 、 俺は変わるんだと信じていた 。
それなのに 。
この歳になっても 、 俺は変わってない 。
「 …… 懐かしい 。 」
懐かしい駄菓子屋の前で足を止めた 。
相変わらずシャッターは半分しか開いてなくて 、 張り紙には猫のスタンプ 。
昔の記憶を辿りながら 、 シャッターをくぐって中に入った 。
こんな時間だから小学生はもちろん 、 お客さんは誰一人もいない 。 だけど 、 俺が知ってる温かさは失われてなかった 。
「 … ばあちゃん 、 」
そう 、 俺は店主の栗田さんをばあちゃんと呼んでた 。
栗ちゃんと呼べと言われてたけど 、 ずっとばあちゃんって呼んでた 。 その方が安心していたから 。
栗田 : 「 おやまぁ 、 こんな朝から誰かと思えば 。 ゆっくり見ていきなさいねぇ 。 」
「 …… うん 。 」
奥から顔を出したばあちゃんは 、 昔より背が低くなった 。 声は相変わらず優しくて 、 懐かしさに涙が溢れる 。
俺のこと覚えてないかな 。
もうずっと前の話だし 、 格好も声も変わってしまった 。 記憶は長く続かないものだろう 。
そう思いながら 、 昔ながらの駄菓子を眺めた 。
栗田 : 「 …… あんた 、 彼方くんかい? 」
「 え? 」
ばあちゃんの声に顔を上げると 、 丸眼鏡をかけてこちらに近寄ってきていた 。
目を細めてまじまじと俺の顔を見たり 、 頭から足元まで見つめたり 。 忙しなく視線を動かした後 、 ばあちゃんはにっこりと笑った 。
その笑顔は 、 記憶の中のそれと一緒だった 。
栗田 : 「 泣き虫の彼方くんだね?こんなに大きくなって … いい男になったねぇ 。 」
「 …… ばあちゃん 、 」
あの時の俺は 、 駄菓子屋に群がる小学生の一人でしかなかった 。 とくに印象深いわけでもなかったはずなのに 、 覚えていてくれてたんだな 。
「 久しぶり 。 俺 、 もう成人したんだ 。 今は大学に行って 、 色んな世界を見てるよ 。 」
栗田 : 「 そうかそうか … もう 、 そんな歳なんだねぇ 。 そりゃあ 、 ばあちゃんも歳をとるわけだ 。 」
「 … ばあちゃんは 、 元気? 」
招かれた座敷へ腰掛けて 、 ばあちゃんが淹れてくれた温かいお茶を啜った 。
机の上には 、 相変わらず饅頭が二つ 。
あの頃と何も変わらない 、 ゆったりとした空間 。
栗田 : 「 元気だねぇ 、 毎日のように小学生と遊んでいるから 。 若さを貰えるのかねぇ 。 」
「 はは 、 そっか 。 元気そうで何よりだよ 。 」
栗田 : 「 …… 彼方くんは 、 悲しそうだね 。 上手くいかないことでもあったのかい? 」
腰を折ったばあちゃんは 、 優しい瞳で俺を見つめる 。
いつも柔らかい表情で見つめてくれるばあちゃんが好きだった 。
面白くもない凛との喧嘩話をして 、 またお茶を啜る 。
ばあちゃんは 、 何も言わずに聞いてくれた 。 男同士だと言っても気にしていないような 、 優しい表情だった 。
栗田 : 「 彼方くんも 、 その相手も 。 お互いが大好きなんだねぇ 。 だから 、 我慢してばかりですれ違ってしまうんじゃないのかな 。 」
「 でも … 嫌われたくないんだ 。 初めての恋人だし 、 男同士だし 。 上手くいかないことも分かってるけど 。 」
栗田 : 「 臆病になってちゃ 、 自分が辛いだけだよ?一度でいいから 、 ちゃんと話し合いなさい 。 」
「 …… うん 。 」
栗田 : 「 もしもダメだった時は 、 ここに連れてきなさい 。 私が彼方くんの良いところ 、 たくさんあるのよって説教してあげるからねぇ 。 」
ふわふわと背中を押されて 、 小さく頷く 。
そうだ 、 俺は凛と戦ってすらいない 。 こんなことで逃げてたら 、 ほんとに林さんに取られるかもしれないのに 。
くよくよしてるなんて俺らしくない 。 ガツンと言ってやらなきゃ 、 ダメなんだ 。
ばあちゃんに背中を押されて 、 俺は立ち上がった 。
「 ありがとう 、 ばあちゃん 。 俺 、 今から会ってちゃんと話してくる! 」
栗田 : 「 そうしなさい 。 これ 、 彼方くんが頑張れるおまじない 。 」
ばあちゃんが俺の手に握らせてくれたのは 、 小さな飴 。 猫と犬の絵が描かれたものを 、 一つずつ貰った 。
また小さく頷いて 、 手を振る 。
「 今度はちゃんと、イケメンの彼氏と買いに来るからな!ばあちゃん 、 ありがとう!! 」
駄菓子屋に背を向けて走った 。
向かう先は 、 もちろん凛の家だ 。
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