アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
*10
-
「え…?今、なんて。」
「俺はあれんが好き。」
嘘一つない言葉を、ようやく口にした。
これ以上、幸せだと自分に言い聞かせて涙を流すあれんを見ているのは
もう耐えられなかった。
「“とーま”さんと僕が…重なるからですか?」
「…は?」
けれどあれんの涙は止まらない
──どころか、その表情はこれまでに一度も見たことも無いくらい
眉間にしわを寄せて歯を食いしばり
込み上げる怒りを無理やり押さえつけているかのようで。
「雅樹さん、覚えてないかもしれないけど…っ。
初めて会ったあの日、あなた僕に向かって何て言ったか知ってます?!」
「……似てる…って?」
「それだけじゃないです!!」
「い゛ッ。」
繋がれていた手は解けて
代わりに胸倉を掴まれ、車に強く押し付けられた。
ドンと鈍い音と共に全身を叩きつけられ、痛みに思わず顔を顰めたが
俺を睨みつける彼の方が、何十倍も痛そうだ。
なんで…
どうして、そんな悲しい顔をするんだ。
「あいつは…叶わないってわかってて、なのに諦められなくてっ
俺は泣いてるあいつに何もしてやれなかったって…!」
あれんの甲高い叫び声は通りに響き渡り、
通行人の視線が集まる。
「結局雅樹さんは僕にそいつ見てんだろ?!そいつに出来なかった事…僕にやって救った気になってんだろ?!」
「それは違──。」
「押し付けがましいんだよ!!!」
「…ッ。」
何も言えなかった。
血管の浮き出たあれんの手はもうずっと震えていて
まともに俺を押さえることなんてできてない。
なのに、動けない。
くっそ余計な事言いやがって。
何してんだよ、俺。
あの日は少し悪酔いしていただけだ。
あれんの事を、まだ何も知らなかった。
あれんが苦しそうに笑うから、救いたいと思った。
とーまじゃない、あれんだから。
君を好きだから、心から幸せそうに笑う君が見たかった。
ただそれだけなんだよ。
「…一旦、車乗ろう。」
だけど、今俺が何を言ったところで
都合の良い言い訳にしか聞こえない。
逃げて、逃げて
希望も抱かず自分を殺せば傷つかない。
そうやって今まで生きてきた俺に
齟齬もなくうまく言葉を伝える事は難しすぎた。
何も言わないあれんの手を取って襟から離す。
弾かれるかと思ったが、俺の手を拒否しない姿に甘え、
握ったまま助手席へと導いた。
すっかり温まった車内で、あれんは何も言わない。
無言の空間で、暖房とアイドリングの音が耳につく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 17