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無言を貫いていたあれんは
窓の外を眺めながらボソッと呟いた。
「…僕、どこに連れていかれるんですか。」
幾分か落ち着いたらしく
まだ目の下を赤くしながらも、浅かった呼吸は整っている。
「んー決めてない。適当に遠い所。
…夜、あの店行くの間に合わねえなって諦めつくくらいの。」
「……そうですか。」
夕方というには少し暗すぎて、夜というには少し明るい空。
窓越しに見えたあれんは
やっぱり機嫌を損ねたまま。
海岸沿いでとまり、とっくに沈んだ太陽の微かな光を眺めた。
「言っとくけど!
あれんとあいつは全然違うから。
顔も背格好も似てないし、性格もお前ほど冷めてない。
重ねようにも重ならない。」
「…この期に及んでまだ喧嘩売るつもりですか?」
「違うって。」
それまでハンドルを握っていた左手で
あれんの頬に触れる。
少し汗ばんだそれにピクリと眉を顰められたのは
気付かないふり。
やっと俺を見てくれたあれんは、瞳を揺らして
それはまるで期待と不安を宿しているようにも見えて。
「つまり、あれんに世話焼いて過去の尻拭いしてるわけじゃないって事。
…あれんがあの人との未来信じて幸せだって言ってんならさ、俺何も言うつもりなかったよ。」
「…っ。」
「俺に助けを求めてくれたの、本気で嬉しかったんだ。
泣くほどしんどい“幸せ”に縋るくらいなら、そんなの辞めて俺にしたらいいじゃん。
……俺を選んでよ、あれん。」
俺の事、好きに使っていいから。
お前の為ならいつだって、どこへだって行ってやるから。
あの人に抱いた想いも
あの人に向けた言葉も
あの人に見せた笑顔も
あの人に尽くした日々も
全部欲しいなんて言わないけど
腹いっぱいになるくらいの優しさで
俺があれんの事、包み込むから
──だから俺で上書き出来たら
……いいのにな。
「いつも、マスターは忙しいんです。
お店始まる前、たまに今日みたいに…誘ってくれて。
大抵急用が出来たって…来てくれない事が多いんですけど。」
あれんの柔らかそうな唇から紡がれる、小さな小さな声を
一言一句聞き逃さないよう
そっと抱き寄せて目を閉じた。
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