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“金曜、絶対夜空けておいてください”
あれんからそんな連絡が来たのは
週末までまだ余裕のあった火曜日のことだ。
辞めて欲しいなんて言えるわけもないまま
気がつけば約束の金曜日、既に月は高く昇っていた。
俺の気持ちを知った上で誘ってくれるあれんへの嬉しさが半分と
行き先のわかりきっている曜日と時間の指定に対する恐怖が半分。
会いたくないと思うのは俺だけなんだろうか。
きっとマスターはこれまでと変わらず
通常通りの笑顔で、何事もなかったかのように俺に接してくるのだろう。
…あれんにも、同じように。
「あ〜〜くっそ!!」
どうやったって敵わない。
あんな奴のどこがいいんだと
あれんに言ってやりたい。
でも、それは単なる俺のわがままで
人を落として自分の株を上げるような卑怯な真似もしたくない。
それでもあれんは、あの人の事が好きだから。
どんなに悔しくても、俺には無い魅力を持ったあの人を、あれんは想っているから。
一度送り届けて覚えたあれんの家の前に到着すれば、まだ約束の時間よりも早いのに
あれんは既に外で待っていた。
「えーっと、俺約束の時間間違ってたっけ?」
「間違ってないです。
早く会いたかっただけ…です。」
突然の予想もしていなかった返答に
にやけそうになる頬を慌てて押さえる。
…俺なわけねーだろ。
どうせマスターだっての。
特に盛り上がる話題も無く、気を抜けば瞼が落ちてきそうなほど長い信号を待っているその時
ふと、あれんの手元の
大切に抱えられている小さな紙袋に気がついた。
「なあ、それ何?」
ビクンと肩を震わせて、持ち手を掴む指にキュッと力が篭もる。
心なしか、頬は紅潮しているようにも見えて。
あぁ、これは
もしかして
もしかしなくても
「…マスターに渡すの?」
無言で頷くあれんに
俺の醜く歪んだ顔がバレないよう前を見た。
折角、今回はちゃんと気持ち伝えられたのにな。
また俺は報われない恋というものをしてしまったらしい。
辿り着いた、バーまで徒歩数十秒の駐車場で
今か今かと待ち遠しそうに俺の左手を眺めるあれんに伝える事は
もう…無い。
ギアがパーキングに入った事を確認するや否やドアを勢いよく開け放ったあれんは、大きく息を吸うと
──何故かスッキリと、まるで霧が晴れたかのような面持ちで
高らかに言い放つ。
「雅樹さんはここで待っててください!」
「はぁ??」
それ以外は何も言わず、颯爽と走りゆく背中を
クエスチョンマークを大量発生させたまま
視界から完全に消え去るまで追いかけた。
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