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一章九話 再会
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「全く。いきなり死ぬなんて、こっちの迷惑も考えて欲しいわ〜。
あいつが買った奴隷が世間に知られたら闇オークションの存在も明るみになる。普通はそういうの隠す為に工夫するもんだけど。
アイツ絶対自宅に奴隷を監禁してるだろ。一人暮らしで天涯孤独の癖に!」
キツネのような吊り目の男は華奢な体型だ。成人男性の平均値よりも低い身長に細い身体つきだ。
黒い乗用車を運転しながら怠そうに不満を漏らした。
助手席に乗っている男の身体は、身長も体型もキツネ目の男の二倍近くある程大きい。
その大男も、キツネ目の男と同じように怠そうに顔を顰めている。
「だから俺達がいるんだろ。せめてちゃんと人間扱いしてりゃいいけどな」
「少年壊しの松山だよ? 買われた奴隷がまともな状態なわけねぇだろ」
溜息を吐きつつ、とある家の前に車を停車させて敷地内へと入っていった。
庭は広く、その奥に古い洋館風の家が佇んでいる。
キツネ目の男は針金を使ったピッキングで難なく屋敷の中へと入った。
目的は松山が購入した奴隷の回収だ。
闇オークションに関わる人間は、何かが起きた時、その存在が明るみにならないよう、始末人が片付ける事を同意している。
「さーて、回収しますか」
キツネ目の男が玄関の扉を開いて真っ先に目に入ってきたのは、廊下の隅に蹲る少年だった。
透き通るような白い肌に一瞬言葉を失う。
全裸で首輪をつけられており、その首輪から鎖で繋がれている。彼らはすぐに彼が奴隷だと分かった。
髪はきちんと整えられており、艶やかで綺麗なダークブラウンだ。松山が少年の外見を気にしていた事が分かる。
「なぁ君、松山の奴隷君?」
声を掛けるが、少年は返事をせずに壁の方を見つめたまま身動ぎ一つしない。
肺の動きがなければ精巧な人間を模した人形であるかのようだ。
「おい、聞こえてんだろ。無視すんなよ」
靴を脱いで上がり、少年の肩に手を置いた。その時、ようやく少年の目はキツネ目の男へとゆっくり動いた。
濃褐色の丸い瞳はまるで西洋人形の瞳のように美しく、吸い込まれるように魅入る程だ。
「あ、あれ? なんか見た事……」
キツネ目の男は少年を隅々まで凝視した。どこかで見覚えがあるような気がしたのだ。
「どうした?」
「なんかこいつ見た事ない?」
「悪いが、俺は人の顔を覚えるのが苦手だ」
「いや、絶対どっかで見た。うーん、うーん……あっ! コイツ、あの時の!」
「思い出したのか?」
「ああ。俺は一度見た奴の顔、結構覚えてる方だからさ。
随分前に、人身売買の存在を公表しようと秘密裏に動いてた奴いたじゃん。そいつを俺らが始末した時に現場見られたガキだよ」
「あぁ、そんな事もあったな」
キツネ目の男は少年を見て懐かしげに微笑んだ。殺人現場を目撃した子供を人身売買組織に売ったのだ。
売上金の一部が割り振られるので、楽しみにしていたのだが、あの時、少年が他の子供達と逃走した事で価値が下がった。
そのせいで彼らに入った金額も予想より下回ってしまったのだ。その時は想像より低い金額に落ち込んだものだ。
今思い出してみればそれ位のやんちゃは可愛いものだと、キツネ目の男は思い改めた。
それにまた売れば、売上金の一部が支払われるので、少しでも懐が潤うのだ。
「あの時は正義感丸出しの顔してたのに、今や見る影なしだな。目が死んでる。やっぱり壊されたな」
「松山は人形フェチだからな」
「無機物の擬人化好きじゃなかった?」
「どっちでもいい。このガキ、また売るのか?」
大男は少し不憫そうな目を少年に向けた。裏社会の人間として生きてきて長い彼は、同情が無意味なものだと知っている。
少しの心の迷いは時に自分の首を絞める事になる。だが、哀れまずにいられなかった。
それなら殺してしまった方がまだ救いがあるという考えだ。
裏オークションで売られるのは、殆どが親の借金が理由の場合が多い。だが、少年は殺人の現場を見てしまったが為に、表向きは失踪扱いされ、あと一年もすれば死亡扱いになる事だろう。
そして、また売られるのだ。自分達の勝手な都合で。
「次はもっと安くなるんだろうけどな、一円でも多く稼げるものは利用する。
なぁ、俺らの為にまた売られてくれよ」
「……ご主人様は……」
ようやく口を開いた少年。まだ松山が死亡した事を知らない。
「松山は三時間前に死亡が確認された。お前はまた俺の所有物に戻ったわけだ」
「あなたが次のご主人様ですか?」
「俺はご主人様じゃない。強いて言うなら次のご主人様に引渡す仲介人ってとこ」
それを聞くと少年はまた黙ってしまった。
この分だと、やはりオークションでの値は下がるだろうと落胆する。それでも、収入源である事には変わらない。
キツネ目の男は少年の肩にポンと手を置いた。
「安くなる分、良いところには買ってもらえないだろうが、俺の為に頑張るんだぞ」
少年は首輪を外されて、男達に連れて行かれた。また売られる為に。
少年はそんな自分の状況をまるで他人事のように、無関心な顔で男達に連れられて行った。
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