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一章十三話 来客
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彼は一見ビジネスマンに見える男だった。
濃紺色のスーツと、それに合った紺色のネクタイ。シャツはストライプ柄で、一般企業の社員というには洒落すぎている。
髪は整髪剤でセットしているのだろう、突風でも吹かない限りは崩れないだろう、キッチリしている。
キリリとした目付きからも、几帳面な人間そうに見えた。
黄褐色の瞳は、他人を寄せ付けないような冷たいが、何故か少年の中で安堵感のようなものを感じた。
彼は少年の前に立つと少し笑みを浮かべた。子供に興味のない大人が仕方なく向けるような笑みだ。
「こんにちは。初めまして、影井です」
少年はどうしたらいいか分からず、峰岸に顔を向けた。自分は道具であるという認識が返事を阻ませる。
例えば人がぬいぐるみに話しかけたところでぬいぐるみは答えないだろう。それと同じだと思っているのだ。
「こいつ俺の道具なんだよ。言ったろ、面白いもん見せてやるって」
「怪我をしているが、大丈夫なのか?」
「俺の趣味知ってるだろ? 遠慮なく暴力を振るえる道具ってのがこいつな訳だ」
「お前、子供になんて事……」
影井は峰岸を睨みつけた。人道的に許せない事だと。峰岸の友人ではあるが、同じポリシーで生きてはいない。
「だって俺が買ったんだし、どう使おうと俺の勝手だ」
「う……。で、この子を俺に見せてどうしようっていうんだ?」
「いや、最近俺もそいつに飽きてきてさ。他の男の味を覚えさせようかと思ってな」
「はあ?」
「おいお前。コイツの事満足させてやれよ」
「はい」
少年は峰岸に命令されると頷いた。急な来客に驚きはしたが、やる事は同じだ。
相手を満足させればいい。道具は人の役に立つのが仕事なのだと自分を納得させた。
「じゃ、俺はソープ行ってくるわ。ゆっくりな〜」
「あっ、ちょっ、おい!」
影井が峰岸を引き留めようとしたが、無視して外へ出ていってしまい、二人残されてしまった。
「全く……。峰岸相手だと大変だろう?」
少年はその問いに返事をしなかった。
客のもてなし方など知らない。無言で寝室へと歩いていくと、影井も後についてきた。
だが、どうしていいか分からずにベッドの前に立ち尽くした。ベッドは峰岸のものだが、少年の寝床は寝室の隅だ。勝手に使っていいものか、思案する。
使って良いとは言われていない。だが、客の相手をするならベッドを使うしかない。
困っていると、後ろから影井がやってきてベッドへ座った。彼は所有者ではない。もし間違っていたら自分が怒られればいい、と覚悟して影井の前に立った。
「君、名前は?」
「僕はご主人様の道具です」
「いや、本名を聞いているんだ」
「……ありません」
少年は当然名前を覚えている。だが、忘れた事にしている。
自分は道具なのだと言い聞かせる為に必要な事だったのだ。自分の名前を認めてしまえば道具ではなくなってしまう。
道具としての価値がなくなれば廃棄されてしまうという恐怖がのしかかっている。
そのまま会話が終わってしまうような雰囲気だが、影井はめげずに別の質問をした。
「歳は?」
「……十八年です」
「年?」
「製造されてから……」
「馬鹿言うな。君は人間だ、物や道具じゃない」
少年はそれを認めるわけにはいかない。物や道具でなければならない。
峰岸に与えられる痛みに耐え切れたのは、ひとえに自分は人間ではないと思い込ませたからだ。
人間だという指摘は邪魔でしかない。
「ちょっと待てよ。ていう事は十八歳か!? 高校卒業する歳だぞ。こんな小さいのに……」
影井は驚愕の目を少年に向けた。というのも、少年はどこからどう見ても小学生から中学生くらいにしか見えない。
声は子供のような高い声ではないが、それでも大人には見えない。
「成長出来ていないのか…」
影井は少年を上から下まで見てうーんと唸った。
そんな影井の様子に少年は困惑していた。峰岸にセックスをしろと命令されているが、いつまで経っても影井は少年を使おうとしない。
困りきった少年は、膝をついて影井のズボンのファスナーを開け、下着の隙間からペニスを取り出した。
ペニスは小さく下を向いている。それを優しく握って先端をヌル、と舐めた。どんなに舐めてもピクリとも反応がない。
少年は口の中に収めてしまい、クチュ、クチュ、と唾液の音をさせながら舐った。だが──、
「そんな傷だらけの身体を抱きたいとは思えないよ。何もしなくていい、寝なさい」
影井に頭を撫でられて、行為を中断された。
そう言われても止める事は出来ない。峰岸に満足させろと言われている。命令を果たせなければ道具でなくなってしまう。
頭を左右に振る少年に、影井は優しい言葉をかけた。
「大丈夫。峰岸には言っておくから、安心して眠りなさい。私は別の部屋に行ってる。気にしなくていい」
拒まれているのに無理にすれば、それはそれで酷い罰を受ける気がして引き下がった。
実際、今までの峰岸との生活で、命令違反したからといって罰を受けた事はない。
従順に徹していたので、命令違反をした事がないというのも大きな理由だが、もし罰を受ける時は松山以上に酷い目に遭うような気がしていた。
無理にセックスした事に無礼だと言われて罰を受けても、命令違反で罰を受けても、どうせ同じなのだ。
(もしかしたら、殺された方が楽なのかもしれない)
少年は部屋の隅に蹲ったまま眠りにつく。死を想像すると、何故か安心した。
もう嫌な事に耐えなくていいのだと。
(明日、反抗をしてみようかな。それで、殺されて、天国に行って、生まれ変わったらお母さんとお父さんのところにまた……)
影井に人間扱いをされたからだろうか、両親の顔が頭に浮かんだ。最後くらい泣いても良いだろう。そうすればきっと、道具ではなく人間として死ねると──。
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