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二章一話 影井
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影井利典は想像もしていなかった出来事を目の前に、どうしようか頭を悩ませていた。
引き取った少年が一人ではまともに生活すら出来なくなってしまっているとは知らなかったのだ──。
影井は名家の生まれだ。彼の父は、祖父から続く大企業を経営しており、影井も将来は経営者となるべく厳しく育てられた。
だが、高校生に上がると強い自我が芽生えた。親の言う事を聞きたくないという強い気持ちが、彼を非行に走らせたのだ。
俗に言う反抗期であるが、彼の場合家族の全てに反発心を抱いていた。
素行が悪くなり、学校で教師やクラスメイトになじめていない、素行不良な者達とつるむ事が多かった。
警察の世話になる事も増え、ついに家を勘当されてしまった。
その時影井はまだ高校生だ。流石に可哀想だと哀れんだ母が大学卒業までの学費と生活費を支援してくれる事になった。
親の介入を拒んでいた影井は、なるべくバイトで稼ぐようになり、親から送られる生活費には手を付けなかった。
そんな影井だが、元々努力しなくてもそこそこの成績を修めていた為、高校三年生の時に重い腰を上げて受験勉強を始めて、そこそこ良い大学に入る事が出来た。
そして大学卒業後は父のライバル会社である一流企業に就職した。
父との溝は深まったが、この頃はもう性格的には丸くなり、母に謝罪をしたりと、過去の精算をした。
社会人になった影井だが、高校時代の不良達と縁が切れておらず、暴力団となった友人と飲みに行ったりしていた。
そういった席でヤクザの組長と知り合い、気に入られた事から、よく闇企業の経営の相談を受けるようになっていた。
その流れで闇オークションの経営の相談にも乗っていて、今の人身売買の仕組みが出来上がった背景には影井の尽力が少なからずあった。
彼のお陰で、確実に信頼出来る人間に奴隷を提供出来るようになり、奴隷となった子供も組織の不利益になるような事さえしなければ、比較的良い購買者に引き取られるようになった。
闇オークションの相談に乗っていたからといって、影井はその商売に興味がない。組長から経営をしてみないかと誘われていたが、ずっと断っていた。
オークション会場に足を踏み入れたのは二十四歳の時だ。峰岸の誘いがあったからだった。
その頃影井は、その経験を活かし、自分で会社を立ち上げた。暴力団等は一切関わりのないクリーンな会社だ。まだ駆け出しの状態で忙しい時期でもあった。
峰岸とは組長経由で知り合った。同い年という事もあり、バーでよく一緒に酒を飲む仲になった。話が合う仲の良い友人だ。
どちらかと言えば裏社会の人間である峰岸だったが、仕事関係では一切関わらないようにしているからこそ、気軽な話し相手となり得たのだ。
峰岸はかねてから闇オークション尽力をしたと噂されている影井が、参加しない事を不思議に感じていた。
影井が峰岸を自宅に招いて酒を飲んでいる時、峰岸は機嫌良く誘ってきた。
「影井よ、どうだ今度。俺の紹介で入れるぞ。質の落ちた子供らしいが、それでも十歳以下しかいないそうだ」
「買ったところでどうする? 面倒な契約を組まされて、子供の面倒も見ないといけない。俺は子供は苦手なんだ」
「子供の面倒なんか家政婦に頼めよ。やりたい事し放題だぜ? まだ無垢な子供を自分の色に染めたいとかないのか?」
「ないね。俺は親父さんの相談だから乗ったまでだ。そういう非人道的な行為は不快に感じる、個人的に好かない」
「見るだけだよ、見るだけ。お前の助言でどうなったか見たくないか?」
「気にならないと言えば嘘になるが……」
「俺、初めて参加するんだよ! 一緒に付いてきてくれよ、頼むよ〜」
「分かったよ。仕方ないなぁ」
半ば峰岸の泣き落としで参加する事になった。影井は良くも悪くも偽善者だ。
売られる少年少女達に同情もするし、救いたいという気持ちもなくはない。助けてあげたい気持ちもある。
だが、行動はしない。見捨てる事に躊躇いがない。
彼が何か行動をする時──それは自分の中の何かを満たす時である。そのメリットがなければ絶対に動かない。それが影井である。
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