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二章八話 少年の憂い
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夜ご飯にはミートソースパスタとサラダ、コンソメスープを用意した。
食事中影井はテレビをつけた。それだけで明るい雰囲気になると思ったのだが、少年は「いただきます」と言ったきりどこにも視線を動かさずに無言で黙々と食べている。
明るいバラエティー番組でテレビからは出演者の笑い声が聞こえたが、逆に虚しいものとなる。
「峰岸のところにいた時、テレビは見てたか?」
「……道具はテレビを見ないです」
「分かった。君は道具じゃないから一緒にテレビを見よう。世の中の事何も知らないだろう。それじゃあ今後困るぞ?」
「今後……? 故障して直らなかったら廃棄されるのは分かってます」
「何を言うんだ。君は学校に通うんだよ!」
「……学校……」
ここに来て初めてだろう。少年の心が揺れたとはっきり分かる。
少年は食事の手を止めて影井の目を見た。少しの希望がこもった、そんな瞳だ。
峰岸の部屋で目が合った時のような虚ろな目ではない。
「そうだ。もう小学校と中学校は通えないから、勉強をして中学卒業程度の学力を身に付けたら高校に入ろう」
「でも、僕は……」
「君は普通の子になるんだよ」
「や、やめて、下さい。僕は……道具のままで、いいです。あなたも僕を使って下さい。じゃないと僕……」
少年の顔には少しの恐怖が窺えた。表情に出るわけではないので定かではないが、手や声の震えで彼は何かに恐怖していると、影井は認識した。
「悪かった。この話はナシだ。じゃあ君の事はなんて呼べばいいかな?」
安心したのか、少年はまた食事を始めた。
「なんでもいいです」
「峰岸はなんて呼んでたんだ?」
「おいとか、お前とか……」
「ハァ」
溜息しか出なかった。仕方がないので影井はこのまま君と呼ぶ事に決めた。名前を教えてくれるまでの辛抱だと。
「そういえば、さっき何を読んでたんだ?」
デスクの上に置いてあった本。影井は中身を確認していなかった。国語辞典が置いてあったから意味を調べながら読んでいたのだろうが。
「……分からない、です。本棚にあったものを借りました。すみません」
少年は影井の顔色を窺うようにビクビクし始めた。
「謝る必要はない。好きに読んでいいんだよ。どんな内容だったかい?」
「経済……がどうのって、マクロって書いてありました」
「それは、多分マクロ経済学の本だね。君にはまだ早いかな。俺が大学の時に使っていた教科書だろう。
国語辞典は使えたかい?」
「あの、漢字が読めなくて。辞書の引き方分からなくて……何も分からなかったです」
「君に読めそうな本を買ってきてあげよう。何か欲しい物はあるかい?」
影井は優しく訊ねたが、少年は「いいえ」と言ったきり喋らなくなってしまった。
「お風呂に入ろう。一緒に入ろうか?」
食事が済み、少年が食器を洗った後、ようやく話すきっかけを得た影井が、引きつったような笑顔で少年に近寄った。
今までの人生でこんなにも笑顔を作った事はない。表情筋が悲鳴をあげそうだ。
「はい」
二人で服を脱いだ。少年の身体に巻き付けられている包帯を取ると、切り傷はかさぶたになっていた。もう包帯は要らないだろう。影井は安堵した。
浴室へと入り、シャワーを浴びようと蛇口を捻ろうとした時。その前に少年が急に膝を着いて影井のペニスに手を触れた。
影井は慌てて、口を開いて陰茎ごと口の中に入れようとした少年の頭を押さえて、その行為をやめさせた。
「ちょっ!! なにしてるの君は!」
「射精が必要だから僕を連れて来たんじゃ?」
「峰岸だとそういう意味になるのか」
「はい」
「あいつは、次会った時説教だな。君はもうそんな事する必要なはないんだ。一緒に入ろう」
少年は顔を曇らせた。何かを怖がっているのは影井にも分かるが、それが何なのか分からないのだ。
二人はシャワーでお互い交互に頭、身体、と洗っていき、影井が先に浴槽に浸かった後に少年も浸かるよう指示をする。
影井の膝に少年を座らせた。
「目の痣と背中の傷は痛くないかい?」
「はい」
「我慢せずに言いなさい」
「少し……痛いです」
「辛かったら風呂から上がっていいからね」
「大丈夫です」
だが少年の身体は硬直している。リラックス出来ていない。影井は後ろから抱き締めた。
他人の人肌や体温はリラックス効果がある。少しずつ少年の身体が弛緩していった。
「一人で入った方が良かったかな」
「大丈夫です」
「明日は休みなんだが、外に出掛けようか?
君が読みやすい本を選ぼうと思う」
「いいえ。ご主人様に何もメリットないですから必要ないです」
「えっ?」
「いえ。指示に従います」
この時の少年の悲しそうな表情を、影井は見る事が出来なかった。
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