アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
二章十五話 招かれた女子会
-
影井が少年とバーに立ち入りると、中からパーン! とクラッカーの音が響いた。
火薬の匂いと共にヒョロヒョロの紙が飛んでくる。影井も驚いたが、少年はもっと驚いたようで、影井の後ろに隠れて、影井の服をぎゅっと握った。
中には詩鶴と、その友達数名が待っていて「ようこそ~」と歓迎していた。
「この子がビビっただろ~」
「ごめーん。初めまして、私は詩鶴よ」
詩鶴は隠れている少年に笑顔を向けて挨拶をした。少年はまだ怖がっているようで、顔だけ出して困惑している。
「言える? 詩鶴よ。私の名前呼べるかな?」
「はい」
「し、づ、る! はい、言って!」
「し……づ……る」
「そう! 良い子ね~。さ、こんな仏頂面のオッサンじゃなくて私達とお喋りしましょ」
少年は影井の顔を見た。
「行ってきなさい。今日は、なんていうか……うちに来た歓迎会だ。俺の友達と、その友達を呼んでいるから、仲良くするといい」
影井がそう言うと、少年はおずおずと前に出て、詩鶴の元へ進んだ。
バーカウンターではなく、ガラスのローテーブルを黒いソファーが挟んでいる席に行き、少年を真ん中に左右に女性が座った。
向かいのソファーには真ん中に詩鶴が座り、その両端にも女性が座る。
完全に少年を囲むように、綺麗なキャバ嬢のような女性五人が集まった。
いつも利用しているバーは雰囲気が一変している。この店にここまで女性ばかりが集まるのは見慣れないからだろうか。
入る隙のない影井はバーカウンターで、マスターに酒を頼んだ。
「マスター、いつものウイスキーをロックで」
「申し訳ございません、今あちらのお客様の分を作っていますので、それからお作りします」
「あ、あぁすまない」
「ちょっと、なにアンタ一人で飲もうとしてるの? まだこの子のドリンク決めてないじゃない」
少年は左右の女性にドリンクメニューを見せられて、どれにするか決めろと言われている。
さすがの影井も、少年が困惑しているのが分かった。殆ど無表情だが、困っている時は眉が少し下がるのだ。
「しゅわしゅわと、しゅわしゅわじゃないの、どっちが飲めるかな?」
「……」
少年は答えられないようだが、女性陣は少年が答えなくても気にせず勝手に話を進めていく。
「じゃあお姉さんオススメ、しゅわしゅわにしようね」
「甘いのと甘くないのは?」
「……」
質問されると下を向いてしまう。そんな少年を抱き締めた女性が、質問した女性に食ってかかった。
「ていうか、炭酸は甘い方がいいに決まってるでしょ」
「ジンジャエールは甘くない方が美味しいけど?」
「それはあなただけじゃないの? 私はジンジャエール嫌いっ」
「それこそアンタの個人的な好みでしょ?」
左右の女性が言い合いになると、詩鶴がすかさずフォローに入った。
「子供なんだし、炭酸入ってない甘いドリンクがいいんじゃないの?」
影井は首を傾げた。少年は十八歳だと伝えてあるのに、彼女達は何故か子供扱いをしている。
確かに見た目から中学生程にしか見えないが。まるで幼児を相手にでもしているかのようだ。
「じゃそうしましょ。あ、マスター! ホットミルクでお願ぁい」
「なんでミルク? 他にもあるでしょ、オレンジジュースとかさ」
「え、甘い飲み物って言ったら、砂糖入れたホットミルクよね」
「それはアンタの勝手な好みでしょ!?」
女性達で一番おいしい甘い飲み物の談義が始まった。くだらない話で皆が笑い合うと、少年も少し肩の力が抜けたようだ。ホットミルクを飲んで話を聞いていた。
「言ってなかったが、その子は過度のストレスで味覚障害になっている。味は分からないそうだ」
影井が詩鶴に情報を与えると、詩鶴は自分が怪我をしたかのような、痛みを耐える顔を一瞬だけ浮かべて、すぐに微笑を少年に向けた。
「辛かったわね。でも、もう大丈夫よ。もうあなたを傷付ける人はいないからね」
優しい女性達の笑顔は癒しだろう。少年は安心したように頷いた。
「影井さん! なんでもっと早く連れてこないのよ? 定期的にこういう飲み会開きなさいよね!」
一人の女性に責められた影井は「あぁ、分かった」と頷いた。完全なアウェイな空間に、影井はただ飲んでいるしかなかったのだった。
少年が困惑しながらも、顔の強ばりがなくなった事に安堵しながら──。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 64