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三章四話 娯楽
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その翌日の事だ。
影井は仕事で留守。詩鶴は用事があって来れない。春哉は部屋で一人になった。
「半年後に中学卒業レベルだもんね! 頑張らなきゃ!」
午前中まで意気揚々と勉強を始め、明日詩鶴に教わる時に少しでも先に進めるよう、各科目予習をするつもりだった。
だが、やる気を削がれてしまう出来事が起きてしまう。
それは昼頃だった。
ピンポーンとチャイムが鳴ったので、春哉はインターフォンに出た。
「はい! こんにちはー」
「あ、宅配便です」
モニターには配送員の制服を着た男の人が台車に手を置いていた。台車にはダンボール箱が置いてあり、すぐに昨日詩鶴が買ってくれた漫画だと分かった。
荷物を受け取り、力が弱くなった腕でどうにか自室へと運んだ。
漫画二十冊分である。普通の男子高校生なら余裕で持てる重さだろうが、春哉にとってはかなり重い。
「やっぱり身体も鍛えないとだ〜」
昔はずっとサッカーをしていた事を思い出す。その頃の事を思い出すと悲しくなる時も多く、あまり考えないようにしていたが……。
「サッカーボールも買ってもらおうかな。もちろん後でお金は返す。
外で遊ぶ時間を作って、勉強も頑張って、家事は少しサボろう」
独り言を言いながらダンボール箱を開けた。
「うーわー! なっつかしー! よく読んでたなぁ。ユウと一緒に……ユウ、元気かなぁ」
学校帰りに遊んでいた友達を思い浮かべる。幼少期からの友達だ。彼はいつも早く帰りたいのを我慢して春哉に付き合っていた。
母親に怒られても、春哉との友情を大事にしてくれていたのだ。
売られてから今まで、何度も考えた事がある。あの時、ユウの言う事を聞いて早く帰っていたらこんな事にならなかったのではないか。
そうでなければ誰かの所有物にはならなかっただろう。
『お前は道具だ』
松山の呪いのような命令が、まだ頭に響く。影井に言われた事を反芻させて深呼吸した。
「僕は道具じゃない、道具じゃない、もう……道具なんかじゃ、ない」
心が暗くなりそうな時に自分に言い聞かせる言葉だ。本当の意味で自分を取り戻さなければ……と。
「さて、内容覚えてないし、最初から読も〜っと!」
悪夢の始まりだった。
最初は一日一巻のペースで読もうと決めていた春哉だったが、一巻の終わりが続きを読みたくて仕方がなくなる病気にかかってしまう終わり方をしていた。
「……気になって勉強に手が付かなくなるから、二巻まで読んだら勉強しよっと」
だが、二巻は主人公の育ての親とも呼べる男の死と主人公の悲しい叫びで終わってしまった。
春哉は既に号泣しており、ティッシュを何枚も使う羽目になった。
「なんで……なんでだよ! 死ぬなよ!
はっ、そうだ。三巻いけばもしかしたら死んでないかも!」
既に三巻を手に取っていた春哉は、勉強もせず、家事もせず、布団に横になって漫画を読んでしまったのだった。
「ただいまー」
誰かの声が聞こえた気がしたが、春哉は布団の上で横になり、漫画を読みながらポテチを食べるという自堕落な姿から戻る事は出来なかった。
ベッドの近くに小さなテーブルを持ってきて、ペットボトルのコーラを置いている。
「次、次〜」
読み終わって、次の巻に手を伸ばそうとした時だった。
「はーるーなーりー」
「ひっ!」
振り向くと、影井が困った顔で見下ろしていた。
「あ、お……お帰りなさい」
「どうしたんだこの惨状は!?」
「惨状って何?」
「周りを見なさい」
勉強机の上には昼食で食べた皿と飲み物が空のまま放置されており、ベッドに横になるのに楽な格好をしようと着ていた服を脱いだのがそのまま脱ぎっぱなしになっている。
コンビニで買ってきたお菓子の袋も床に散らばっているところまで見て、春哉は驚愕した。
「あれ、部屋が……!? まさか泥棒が!?」
「君が汚したんでしょう! 片しなさい」
「えっ、ちょっと待って。これ読み終わったら」
「あとどれくらいで読み終わるの?」
「んーと、あと五巻だから……二時間くらい?」
「読むのをやめてこっちに来なさい!」
影井の口調は強く、怒っているだろう事がうかがえた。春哉は冷や汗をかきながら、嫌々ながら部屋を出た。
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