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三章十二話 入学前の準備
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五ヶ月後。年明けに春哉は無事高校入学試験を合格して高校に入学出来る事となった。
制服も準備が終わり、後は入学の日を待つだけだ。
「春哉〜ちょっと来なさい」
二階にある部屋で勉強をしていると、下の階から母親の呼ぶ声が響いた。春哉はすぐに部屋から出て階段を駆け下りる。
「おかーさんなーに?」
大声を出しながらリビングへと入り込んだ。そんな春哉を見て、母親は柔らかい笑みを見せる。
「ちょっと話があるの、座りなさい」
リビングのソファーに座っている母のすぐ隣に座った。
キャリアウーマンとして社会で活躍していたが、春哉が失踪してからは仕事を辞めて家に籠っていた。春哉が家に戻ってからも母親はずっと家にいて、幸せそうに春哉の世話を焼いている。
「どうしたの?」
「これ、持っていなさい」
母親が出したのはスマートフォンだ。
「えっ! いいの〜? わーい、これで何でも出来るんでしょ〜? 嬉しいなぁ。お母さん、ありがとう!」
春哉は喜んだが、対照的に母親は暗い顔で、春哉を抱き締めてゆっくりと話す。
「真面目に聞いて。これからは学校から帰る時、必ず私に電話で連絡して。何か困った事があった時でも必ず連絡して欲しいの」
「うん……」
「学校が隣の県だなんて。でも仕方ないわよね、あなたの未来の為だもの。何かあれば影井さんが守ってくれると言ってくれているし、お母さんは信じる事しか出来ない」
学校は春哉の家の最寄り駅から六つ離れた場所だ。片道三十分程度だが、母親はそれが心配でならない。
幸い、春哉が影井と同居していたマンションから徒歩十五分程度の場所なので、何かあれば影井が対応するという話になっている。
「あなた影井さんと仲が良いから、寄り道してしまうのは想像つくわ。でもね、そういう時でも連絡して欲しいの」
「分かった。お母さんを不安にさせない事が目的だね、任せて。どういう時にお母さんが不安になるか分かってるから」
「うん、ごめんね。本当は束縛とかしたくないけれど、でも……」
「大丈夫。分かってるから」
「ごめんね、ごめんね……」
母親は泣きながら春哉に何度も謝った。謝らなくていいのに、連絡するくらいなんて事はないのに。春哉は胸に込み上げてくる思いが、喉を塞ぐような感覚に何も言えなくなった。
ピンポーンと、チャイムの音がして母親との話はそこまでとなった。スマホを受け取り、玄関前にいる詩鶴を迎える。
「詩鶴先生! お待たせ!」
「お邪魔します〜」
詩鶴が家に入ると、母親も顔を出して頭を下げて挨拶をした。
「詩鶴先生こんにちは」
「こんにちは! 今日もお邪魔しますね」
「いつもありがとうね」
「いいえ〜。じゃあ春君、部屋行こう」
「うんっ!」
詩鶴と二人で部屋に入り、春哉は今まで勉強をしていたところだとノートを見せた。
「基礎問題はつつがなく進んでるよ」
「さすが。てか、春君もお母さんも泣いてた?」
「んー、まぁ。学校から帰る時は連絡してくれってスマホもらったんだ」
「なるほど。そりゃあお母さんは怖いよね、また帰り道で何かあったらって思っら、スマホくらいは持たせるよね」
「うん。僕はお母さんの不安を取り除いてあげないといけないんだ。もう二度と誰かに自由を奪われない」
もう捕まって売られたりしないと決意しているが、影井のお陰でその心配はない。ただ、脅威は人身売買だけではないのだ。
「そうだよね。影井さんが守ってくれるって言っても絶対じゃないし。今度護身術教えよっか」
「詩鶴先生が!?」
「まさか。師範がいるんだよ。私も合気道習った」
「そうなんだ〜! でもいいや。やりたい事多いから、時間は有効活用したい」
「なーんか生意気になったね〜」
「成長してるからね」
少し笑いあってから勉強を始めた。今は高校の授業の予習である。基礎から教わり、問題を解く練習や、理解を深める為に詩鶴独自の授業を受けている。
詩鶴とは相性が良い。説明された事がすんなり頭に入るので、教わっているのに理解が出来ないという事がないのだ。
「僕、学校でやっていけるかなぁ?」
「学校生活で大事なのは成績だけじゃないからね。集団生活に溶け込む必要があるよねぇ」
「そういうのってどこで身に付けられる?」
「学校に通うしかないよね。一応、病気で中学行ってないって事になってるから、学校生活分かりませんって顔しておけば?」
「そうするしかないか〜」
通う高校は偏差値が高めなので、勉強で置いていかれないように詩鶴に家庭教師を続けてもらっているが、頭の中は勉強より学校への不安でいっぱいだった。
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